新幹線開業60年(3)路線拡大に暗雲:リニアは工事難航、北陸はルートの議論再燃
西九州新幹線、佐賀県が反対貫く
2023年に部分開業した西九州新幹線も同様の問題に直面する。同線は在来線から新幹線に直通運転が可能なフリーゲージトレイン(軌間可変電車、FGT)を導入し、時短効果が高い武雄温泉―長崎間を新幹線フル規格で新設、博多―武雄温泉間は在来線を走行することで、建設費を抑えつつ、乗り換え不要の直通運転を実現する構想だった。ところがFGTの技術開発が難航し計画を断念。現在は武雄温泉駅で在来線特急と対面乗り換えする形式で運行している。 国と長崎県は乗り換え方式では整備効果が限定的として、新鳥栖―武雄温泉間も新幹線フル規格で建設したい意向だ。しかし現在博多―佐賀間が最短35分で結ばれている佐賀県は、十数分の時短効果しかない中で莫大(ばくだい)な建設費を一部負担する上に、長崎本線が並行在来線として経営分離されるため、反対を貫いている。
新幹線網の維持に政府は長期的な展望を示せ
新幹線の建設は最終的に負担と見返りのバランスが成否を決定する。これまで整備新幹線の多くは都市部から地方へ向かう形で建設され、地方側は観光振興などへの期待から大都市と直結する新幹線を歓迎した。ところが北陸新幹線は敦賀から京都、大阪に向けて延伸する形になる。都市部では工費がかさみ、工期も長くなるため沿線住民の負担が大きく、並行在来線分離の影響を受ける利用者の数も多くなる。大都市側は歓迎一辺倒とはいかないだろう。 整備新幹線にとってさらなる課題となるのは、既設路線の更新だ。国による公共事業の形で最初に建設された北陸新幹線・高崎―長野間は1997年の開業から30年近くたち、施設の大規模更新を検討すべき時期に入ってくる。整備新幹線のJRへの貸付料は30年定額とされている。国交省はこれまでに北陸新幹線の同区間の貸付料支払期間を延長し、金沢ー敦賀間の建設費高騰分に充当する方針を示している。しかし、整備新幹線全体の貸付料の扱い、大規模更新の費用負担は未定のままだ。 近年、四国新幹線や山陰新幹線、奥羽新幹線などの基本計画路線を、次なる整備新幹線に格上げしようという運動が活発化している。しかし人口減少の本格化で地方の移動需要は特に縮小し、新幹線整備の便益は低下する。一方、インフレや人手不足、耐震基準引き上げ、環境対策などの法規制強化により建設費は増大していくため、費用便益比を満たすことはますます困難になる。 政府・与党は貸付料を50年に延長したい考えだが、これを安易に新線建設の財源と捉えては新幹線ネットワークの維持は困難になる。国は新設と更新のバランスを考慮した長期的な展望を示す必要があるだろう。
【Profile】
枝久保 達也 1982年埼玉県生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)で広報、マーケティング・リサーチ業務などを担当し、2017年に退職。鉄道ジャーナリストとして執筆活動などを行うとともに、都市交通史研究家として首都圏を中心とした鉄道史を研究する。著書『戦時下の地下鉄 新橋駅幻のホームと帝都高速度交通営団』(2021年、青弓社)で第47回交通図書賞歴史部門受賞。近著に『JR東日本 脱・鉄道の成長戦略』(2024年、KAWADE夢新書)。