「一見さんお断り」にも合理的な理由がある…京都のお茶屋が受け継ぐ「究極のキャッシュレス」の仕組み
■何にお金を使わなければいけないのか、という「問い」 そんな松栄堂さんは、どんな特徴的なお金の使い方をしているのでしょう? それは「投資」です。 松栄堂さんの経営理念は、「変わらないために変わり続ける」となっています。薫香類の製造から販売までをこれからも続けるために、常に果敢に挑み続けるとも。 松栄堂12代目社長である畑正高さんは、大学卒業後に1年間イギリスへ行ったのち、すぐに松栄堂の香房現場に入り、製造から始めました。
畑さんが現場に出たときは、50代の2人の社員と耳の不自由な40代の先輩と工場には4人だったそうです。そのときの危機感が、「この先輩たちが元気な間に、機械化をすすめ、彼らが認める製品をつくれるようにしないと!」という考えでした。 このような現場では、技術を継承できる若い人たちを多く採用するのは難しいと考えたからです。あとから振り返れば、ここが松栄堂さんにとって、1つのターニングポイントだったことは間違いありません。ポイントは3つです。
1 投資の必要性への理解 1つめのポイントは、収益を上げるために投資(お金を使うこと)が必要だと理解していたことです。 2 正しいお金の使い方 2つめは、お金の使い方を誤らなかったこと。 この時代、職人技をオートメーション化するなんて、現実的ではなかったはずです。ごく平凡な頭で、「生産性アップのための投資は何か?」と考えたら、せいぜい香房をきれいにするとか、給与をアップして、職人の数を増やすとか、そんなことにお金を使おうと考えそうです。
でも、畑社長は、その時代、誰もやったことのない技術のオートメーション化というところにお金を使うと決めました。「果敢に挑戦する」という経営理念の体現でしょうか。時代という外部環境を分析し、自社の強みを分析した結果、お金の使い方を誤らなかったのでしょう。 3 あきらめなかったこと 最後に3つめ。実は、実際に工場が建設されるまでに10年かかりました。でも、その10年間、建設をまったくあきらめなかったことです。