「ナミビアの砂漠」「Cloud クラウド」の音楽を手掛けた渡邊琢磨が語る「映画音楽の魅力」
――そうやって文脈を見直しながら更新していくのは他のジャンルの音楽にもいえることですね。個人的にはミカ・レヴィと渡邊さんは通じるところがあるような気がします。両者とも専門的な音楽教育を受けていて、エレクトロニックな音楽からオーケストラ・サウンドまで手掛けることができるところとか、
渡邊:ミカ・レヴィの映画音楽にはいつも驚きと発見があります。ジョナサン・グレイザー監督の「アンダー・ザ・スキン」(13年)のサントラでは、木魚のような音が間を置きながら、「コツン、コツン」と鳴るのですが、その曇った打音と歪んだシンセサイザーの音がなんとも不気味で素晴らしく、人間とエイリアンの世界に溶け込んでいきます。「MONOS」(19年)でも笛のような音とティンパニーのロール音をうまく対比させるなど、音色や楽器の組み合わせも独創的で謎に満ちています。
――日本の映画界も、坂本龍一、細野晴臣、鈴木慶一といったベテラン、最近では石橋英子、岡田拓郎など、さまざまなミュージシャンが映画音楽を手掛けています。映画監督の音楽に対する意識も変化してきているのかもしれませんね。
渡邊:映画監督と音楽家の共同作業では、思いがけない発見や着想を得ることも多くありますね。映画の完成に際して、プリミックスから立ち会いをすることもありますが、映画監督の効果音に関するアイデアや判断は勉強になります。台詞や効果は映画内の音ですが、スタジオに立ち会っている自分からは気づけない細かな音にまで注意が行き届いていて、映画は音の情報が錯綜するので、音楽とのバランスを考える上で参考になります。それから、音楽は言語化することが難しくお互い専門知識も異なるので、演出の方向性をやりとりする上で難渋することもありますが、その際の互いの語彙というか、ひねり出される考えが逆に面白く着想につながることもあります。そういう解決困難なやり取りを経て、思いがけない音楽が引き出されます。