「ナミビアの砂漠」「Cloud クラウド」の音楽を手掛けた渡邊琢磨が語る「映画音楽の魅力」
渡邊:「パララックス・ヴュー」のサントラを採譜したことがありますが、あのマイケル・スモールの劇伴は、ほとんど発明に近いと思います。管弦楽法による音響像でもなくリファレンスもあまりない。マイケル・スモールとアラン・J・パクラ監督は、映画と音楽が拮抗しつつ一体化しているような独特の緊張関係をつくり上げたと思います。映画音楽史を調べていくと、トーキーが登場して以降、時代ごとに革新的な音楽が生まれていますが、おそらく直近でも転換点になるような音楽がつくられている気がします。例えば、ヨハン・ヨハンソンが手掛けた「ボーダーライン」(15年)のコントラバスのグリッサンド音ですとか。映画音楽は多分に派生的ですが、その典拠は時間がたってみないと分からないことが多いですね。
――トレント・レズナーの音響的なサントラもそうですね。レズナーもヨハンソンもロックのフィールドで活動していたミュージシャンですが、最近ではレディオヘッドのジョニー・グリーンウッドやミカ・レヴィのように、映画音楽の作曲家以外のミュージシャンがサントラを手掛けるようになりました。渡邊さんもその1人ですが、そういった動きが映画音楽の世界に与える影響は大きいのではないでしょうか。
渡邊:映画音楽には定まった方法がありませんし、近年は音楽性がより多彩になってきたと思います。明確な主題があって口ずさめるような映画音楽もあれば、サウンドデザインや音響効果に近いサウンドトラックも多く、まさに映画音楽の変革期なのかもしれません。ただ、古典的なフィルムスコアリングの方法を引き継いでいくことも重要だと思います。個人的に文脈は大事ですし、過去作品に取り組むことで自分なりの方向性を見出すこともできます。「Cloud」の作曲に入る前には、ジョン・フリン監督の「組織」の音楽を手掛けたジェリー・フィールディングや、バーナード・ハーマンを聴いて「Cloud」のオーケストレーションなどを検討していました。