『六本木六軒:ミケーレ・デ・ルッキの6つの家』インタビュー: イタリアの巨匠は“ロッジア”になにを思う?
そして本展でデ・ルッキが熱い眼差しを向けるのがマテリアルだ。6つの家は半分を木材、半分をブロンズで制作している。ここにも彼の思索が見られる。 「まず木材は人類が初めて手にし、何かを生み出したマテリアルです。つまりマテリアルの祖先です。一方でブロンズは人類が初めて発見した金属。2つのコンビネーションが非常に重要でした。後に他の素材が発見されていくわけですが、この2つの素材は私たちの文明を築く上で非常に重要な存在だったのです」 さらにデ・ルッキは台座も含めて作品であり、表現であるという。アセチル化処理(木材を安定させ、耐水性、耐朽性等を高める酸化処理)を施したオーク材の台座も、デ・ルッキがデザインを手がけたものだ。 「『ロッジア』のみならず、展示そのものをインスタレーションとして捉えていただきたい。今回はオフィス家具メーカー〈ユニフォー〉の協力で台座を制作しました。この台座は人の手でアナログに切り出されています。木材を切り出した台座をその後は放置し、やがてそこに伸縮が起こって亀裂が入りました。自然のままに放置し変化する台座もまた、インスタレーションを構成する要素です。変化をしていく一時的な存在に美があるのだという概念を打ち出したのは千利休です。この考えは非常に日本的であるともいえるでしょう」
建築空間の考察とマテリアルとの対話、本展でデ・ルッキが見せたいものはなにか。 「私たちが学ぶべき最も重要なことは、人間が自然にかなうことはないという事実です。自然は人類よりもはるかに強大な力をもっている。一方で我々人間が他の動物に優る能力をもっているとすれば、それは伝える能力を有しているということです。私たちは言葉やシンボルを使い、互いにコミュニケーションを図ります。私が信頼する人類学者のユヴァル・ノア・ハラリは、人類が他の生物にくらべて高い柔軟性を備えていると指摘しています。私たちは自然のなかでどのような振る舞いをすべきかを考えることができますし、それを果たす大きな責任をもっているのです」