「自身の世界観を絵画だけでなく着物でも表現していきたいと思います。」日本画家・高橋朋子さんの着物の時間。
「帯留めにしたのは、母の形見のカメオのブローチです。生前、母から『帯留めに使うとおもしろいと思うわよ』と言われていたので、いつか試してみたくて。帯の真ん中にするとバランスが悪いような気がして、エメラルドグリーンの目線の先に来るように留めてみたら定位置のように決まりました。なんだか母がここにしなさい、と指示してくれたような。ここにあることで、体の中心を支え私を守ってくれるような気がします」 真矢さんがこの着物を着るのは今日が2度目。1度目は購入した年に、京都の花街(かがい)で行われた「花街おばけ」に誘われたとき。これは、節分の夜に芸妓たちが趣向をこらした扮装で各座敷を回る行事で、華やかな早春の催しとして知られている。 「東京から自分で着付けて行きました。このときは草履です。いつもは正統な着物姿の芸妓さんたちが、自由に着物を楽しんでいる姿を見て、着物の多様さを知りました。ルールに縛られて、着るチャンスを逃すことはない。楽しむことも大切だと思ったんです」 仕事で着物を着る機会はあるが、オフで着ることが少ないのが残念、と真矢さん。 「理想は着物と対話しながら着ること。“今日は私を着てね”“そうね。帯で遊ぼうか”みたいな。着物は洋服みたいに無造作には着られないですが、いざ!というときに着物をさっと着こなしたい。私にとって着物は違う自分に出会え、背筋が伸びる最強のアイテムです」 一つ紋の鮫小紋は高貴な色とされる紫。宝物を並べた『宝尽くし』の刺繡半衿は吉祥文様で寿ぐ心を演出した。 「ヘアもレトロなイメージにしてもらいました。祖母には会ったことはありませんが、きりっとした雰囲気の方だったのではないかと思い、私なりの世界観でまとめました。絵もそうですが、着物も自分の世界観を表現できるところが魅力ですね。もともと着物は好きでしたが、個展の開催時に着物で皆さまにご挨拶をしたいと思ったのが、よく着るようになったきっかけです」 と自作の絵の前に立つ高橋さんからは、現代と過去が融合した雰囲気が漂う。