元暴力団組長が出資し、袴田事件の冤罪を訴えた「実録映画」の「知られざる秘話」…袴田巖さんを演じた「主演俳優」のハマりっぷり
実録ヤクザVシネのデラックス版
かくして元暴力団組長の総指揮によって「実録」と縁深い作り手や組織が集まった『BOX 袴田事件 命とは』が生まれ、袴田巖の無実を訴える唯一の劇映画となった。このタイミングで配信がないのは残念だが、草の根の上映は続いており封印されたわけではない。忘れ去られることなく、新たな展開を望みたい。 なお、後藤忠政の半生は『無頼』(20年/監督:井筒和幸)として映画化されており、EXILEの松本利夫が後藤忠政ならぬ「井藤正治」を演じて、およそ2時間半の任俠ロマン一代記となっている。 後藤組との交流について「俺がヤクザとゴルフしたからって、誰が困るってんだよ」という啖呵を切った小林旭の代表曲「熱き心」を後藤、いや井藤が歌うシーンが見せ場として用意され、 芸能界との関わりもちらり。ラストはカンボジアでの慈善事業と子供たちの笑顔で締めくくられた。 『BOX』のように企画の成り立ちは明らかにされてないが、2000年代に地下鉱脈のごとく湧き出た実録ヤクザVシネのデラックス版という様相であり、しかしコンプライアンスの問題か、公開時の宣伝にあたってモデルの存在は伏せられた。 筆者が新宿・ケイズシネマで『無頼』を観賞した際は、かなり寂しい入りだったが、その筋らしき客がポツンポツンと見当たり、スリリングな空間であったことを思い出す。いまはなき銀座シネパトスで『BOX』を見たときも、はっきりガラガラであった。しかし、袴田巖の無罪が確定した今こそ注目されるべき映画なのは間違いない。出資元への是非を説く声もあるだろうが、そんな裏側もふくめて「映画」というジャンルの一筋縄ではいかない多様性が示されている。 『BOX 袴田事件 命とは』 企画:忠叡/エグゼクティブプロデューサー:後藤正人/脚本:夏井辰徳、高橋伴明/監督:高橋伴明/出演:萩原聖人、新井浩文、葉月里緒奈、大杉漣、岸部一徳、塩見三省、石橋凌ほか/製作:BOX製作プロジェクト(2010年/117分)
高鳥 都(ライター)
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