東京・中央区に喫煙所が多いワケ…オーバーツーリズム時代に考える「訪れる人、働く人、住む人が共存する都市」
商人たちが守ってきた「銀座」
日本を代表する繁華街である東京・銀座では、「旦那衆」と呼ばれる商店の主人たちが、町の景観と品格を守るため、手を取り合って街を守ってきた。 【写真】中央区に点在する喫煙所 一本裏路地に入ると、小さな呉服店やギャラリー、飲食店がひしめき、煌びやかな表通りとは少し違った雰囲気が漂う。「晴れの日」の景色と下町の風情が同居する懐の広さが、いつの時代も人を惹きつける所以なのだろう。 銀座を中心に、東京都中央区エリアを歩いてみよう。東へ向かい、首都高をくぐり、本願寺前を通れば、魚河岸の歴史を残す築地が広がる。食べ歩きや食材を買い求める人々でいつもにぎわっている。 銀座から北に向かえば、江戸の商いの中心地である日本橋にたどりつく。日本の風情と活気を感じられる街が集約しており、インバウンド都市の代表といって差し支えない。 世界中から観光客がやってくる一方で、オーバーツーリズムの問題も看過できない。モラルやマナーの問題、特に路上喫煙や吸い殻のポイ捨ては、放置すれば街の景観を大きく損なう。 目下、訪日外国人は年間2500万人を超える。WHO(世界保健機関)のたばこ関連最新データ(2023年)によると、訪日観光客の多い国の喫煙率(2021年)は、中国21%、ベトナム19%、フランス28%、ドイツ17%、インドネシア31%、タイ16%、アメリカ14%。およそ2割が喫煙者であることを考えると、繁華街では喫煙所が足りないかもしれない。 日本では法律や条例にのっとって街のルールが定められているが、喫煙文化は当然各国で違う。「郷に行っては郷に従え」とは言うものの、価値観の違いをよく理解したうえで街づくりに取り組めば、訪れる人、働く人、そして住む人それぞれが気持ちよく過ごせるようになるはずだ。
63ヵ所の喫煙所
東京23区のなかで、中央区は率先して喫煙所の設置に取り組んでいる。当然のことながら、喫煙所は国や自治体が勝手に、無料で設けるものだけではない。用地取得の費用や、灰皿の交換や空気清浄機のメンテナンスなど維持費用がかかり、特に都心では地価が高く、民間で喫煙所を作ろうとしても、まとまった用地を取得するのに金額がかさみ、断念せざるを得ないケースがある。 そうした事情がある中、中央区は公衆喫煙場所設置等助成制度を定め、設置費用に最大1000万円、維持管理費に年180万円(5年間)を助成するなど、他の区より充実している。その結果、区営喫煙所は20ヵ所、民間の公衆喫煙所は43ヵ所の合計63ヵ所まで整備された(2024年11月現在)。 また、同区は「中央区たばこルール」を作成するとともに、「指定喫煙場所マップ」を作成。一目見ればどこに喫煙所があるかわかるようになっており、認知促進に努めている。 改めて、にぎわう中央区の街並みを歩いてみよう。まずは築地。乾物店や海鮮居酒屋などが所狭しと並ぶ一角の裏路地に入ると、「築六喫煙所」と書かれた屋内スペースがあった。一見喫煙所に見えない造りだが、こちらは民間の公衆喫煙所となっている。 続いて、築地本願寺を抜けて新富町方面へ。こちら側にもホテルや駅が点在するため、訪日客の行き交う姿が目立った。築地川公園にはコンテナ型の喫煙所が隣接していて、近くで働く人たちが変わるがわるリフレッシュのひとときを過ごす。煙やにおいは、コンテナから外部にはほとんど漏れないようだ。 銀座駅・銀座一丁目駅周辺では、ギンザシックスや東急プラザ銀座など、大型商業施設内に入る民間の指定喫煙所が点在している。ただ歩いているだけでは気づきにくい場所も、マップがあれば見つけやすい。 有楽町駅に近い数寄屋橋公園近くの喫煙所コンテナは、都会のど真ん中にぽっかりと開いたエアポケットのような静けさの中にある。自分の時間を作り、ひと息入れるにはうってつけの場所だ。 街中を歩いていて気づいたことがある。たばこの吸い殻だけでなく空き缶や食べ物の包装紙など、繁華街にしては、ごみが比較的落ちていないのだ。 小さなごみひとつ落ちているだけでは、景観はそう変わらないだろう。ただ、それが少しづつ増えていくことで、誰かが「汚してもいい場所」と思ってしまうかもしれない。一度そう思われてしまうと、街はあっという間に汚されていく。 「中央区たばこルール」のような路上喫煙対策は、煙や火が子供にぶつかる危険を防ぐだけでなく、そういったきっかけを防ぐ大きな役割を担っている。