「亡霊ちゃん」と陰口を叩かれて無視され…スクールカーストの残酷さを可視化した女子高デスゲーム(レビュー)
『みんな蛍を殺したかった』の著者・木爾チレンが放つ最新作は、青春と友情の極致を描いた青春デスゲーム小説『二人一組になってください』。 卒業式直前に起きた【特別授業ゲーム】は、二人一組になれなかった生徒から死んでいくサバイバルゲームだった。クラスのスクールカーストが崩壊し、裏切り、嫉妬、憧れが入り乱れる。生き残って卒業式に出席できる生徒は誰なのか? 「小説推理」2024年11月号に掲載された書評家・あわいゆきさんのレビューで『二人一組になってください』の読みどころをご紹介します。 ***
■「きらきらした青春」への憧れが引き起こす人間関係の歪みとは? スクールカーストとデスゲームを掛け合わせ、目を逸らしていた残酷さを剥き出しにするサバイバルノベル!
ヒンドゥー教に根付いている階級制度を「カースト」と呼ぶ。「スクールカースト」の名称で馴染み深いひとも多いはずだ。スクールとは言わずもがな学校であり、学内で形成される階級意識を指す。学生時代、見えない「カースト」を実感したことがあるひとも大勢いるだろう。 しかし、生徒のあいだに階級や身分の差など間違っても存在してはいけない。だとすれば、スクールカーストはなぜ発生してしまうのだろう? 『二人一組になってください』では、京都にある私立八坂女子高校を舞台に、スクールカーストの歪みを暴く。3年1組の生徒27人は卒業式の当日、出られなくなった教室でデスゲームに巻き込まれた。彼女らは親しいクラスメイトの存在を前提にした「二人一組になってください」の言葉を引き金に、二人一組になれなかった独りの生徒から順に死んでいく──残酷極まりないルールに翻弄される。 27人もの生徒を描くのは本来難しい。だが、本作では「亡霊ちゃん」と陰口を叩かれて無視されている水島美心、隔てなくやさしい美少女転入生の朝倉花恋をはじめ、ひとりひとりが強く印象に残るように描かれており、教室の雰囲気が完ぺきに再現されている。和気藹々と見せかけて殺伐としたクラスメイトの多くに共通するのは、「青春へのあこがれ」だ。恥ずかしくない青春を送りたい思春期の欲求で手一杯になり、他人を慮る余裕のない彼女たちの言動が生々しい。そして自分のことばかり考えながら他人と関わっても、打算なしに助け合える関係はうまれない。 スクールカーストとは教室のなかで「きらきらしたい」自意識がぶつかりあうことで形成されていく、他人との歪な関わり方の象徴でもあると突きつけてくる。 また、スクールカーストを可視化するデスゲームはやがて、なかったことにされていた教室内の「いじめ」をも浮き彫りにする。独りの生徒を排斥し続けるデスゲームはいきなり起きたのではなく、とっくに起きていた──結末を見届けたとき、次々に生徒が死ぬ残酷なデスゲームを、フィクションの出来事だとは切り捨てられなくなるだろう。 「二人一組になってください」というタイトルも秀逸だ。二人一組になるには必ず、自分以外の他人にも目を向けなければいけない。そのとき自らの青春を守ることで手一杯になるか、はぐれている誰かに手を差し伸べて真の「二人一組」になれるか──。残酷な響きを持つ言葉を希望へと変えようとする願いが込められている一作だ。 [レビュアー]あわいゆき(書評家) 協力:双葉社 COLORFUL Book Bang編集部 新潮社
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