夫婦の64%が該当!“セックスレス大国・日本”の世界最低レベルな性事情のリアル
「セックスレス」という言葉がすっかり浸透した現代日本。表向きは仲が良さそうでも、何年もレス状態の夫婦はごまんといる。 ▶︎すべての写真を見る 一方で、セックスレスを深刻化させる要因にもなっているのが、ED(勃起障害)だ。いざというときに機能せず、男としての自信を失ってしまっている人も決して少なくないだろう。 こうした日本人の性生活の現状について「かなり深刻な状況にある」と話すのは、順天堂大学浦安病院泌尿器科教授の辻村晃さんだ。
辻村さんが所属する日本性機能学会では、2023年末に、1998年以来25年ぶりとなる「性機能障害の全国実態調査」を実施した。その結果、日本人の「性欲」「セックスレス」「ED」などに関する驚くべき現状が明らかになったという。 決して人ごとではない令和の性事情について、辻村さんに詳しくお話を聞いた。
セックスレス大国・日本の最新事情
ーー25年ぶりに実施された『性機能障害の全国実態調査に関する報告』では、どのようなことが分かったのでしょうか? 今回の調査は、20~70代の男性6228人を対象に、居住地域や年齢区分を現在の人口分布に限りなく近づけて行いました。 その結果、婚姻関係にある夫婦のセックスレス(性交渉の頻度が1カ月に1回未満)の割合は64%が該当することがわかりました。なお婚姻関係にはないパートナーを含む場合だと、全体の70%がセックスレス状態であると判明しました。 近年セックスレスの割合は軒並み上がり続けており、減少した年がありません。 さらには、自分の性的欲求について問うと「全く感じない」と回答した20代男性は、30代よりも多い全体の20%以上にのぼることが分かり、現代日本人男性の性欲低下がはっきりと見て取れる結果になりました。 ーー7割がセックスレス……。そもそも日本は、世界的に見てもセックスレスの割合が高いといわれていますよね。 1年間でどれくらい性的アクティビティがあるかを調査した有名なデータ(Durex社)によると、世界でも日本だけが飛び抜けてセックスレス状態にあるということがわかっています。最も多いのはギリシャで年間約140回。日本に近いアジア諸国だと、約80回です。 一方で、日本は約45回。平均すると週に1回ペースになりますね。日本人の感覚だと、週1なら特別少ない感じがしないかもしれません。それでも世界と比較するとダントツに少ない。この調査は2005年のものなので、じつに20年以上も前から「日本人は性的アクティビティが圧倒的に少ない民族」といわれてきました。 ーーこれはもはや社会問題では? 7割近くがセックスレスで、性的アクティビティも世界で群を抜いて少ない、なおかつ若い世代でさえも性的欲求が激減している……というのが、衝撃的な日本の現状です。少子化の現代ではまさに、社会問題でもあります。 なお、先の調査では、ED(勃起障害)の実態にも迫りました。その結果、EDの該当者数は約1400万人と推計。前回の調査は、バイアグラが発売される前の1998年に実施されており、当時の該当者は1130万人でした。しかし今回は1400万人と、じつに300万人弱も増えている状況です。 その中でも目を逸らせないのが、若年層EDの激増です。通常、加齢とともにEDが増える傾向にありますが、今回の調査で20代もかなり危うい状況にあるとわかりました。 ーーそもそも「ED」の定義とはどのような状態を指すのでしょうか? ED診療ガイドラインに基づくと、EDとは「満足な性行為を行うのに十分な勃起が得られないか、または維持できない状態が持続または再発すること」と定義されています。 今回の調査では、EDの判定は「SHIM」という勃起機能問診票を用いることを検討しました。SHIMの合計点から重症度を判定するもので、21点以下はEDの症状があるという指標です。 もしかしてEDかも? セルフチェック <SHIM> この6カ月を振り返り、当てはまる番号を選択してください。 ● 勃起してそれを維持する自信はどの程度ありましたか 1.非常に低い 2.低い 3.中くらい 4.高い 5.非常に高い ● 性的刺激によって勃起したとき、どれくらいの頻度で挿入可能な硬さになりましたか 0.性的刺激はなかった 1.ほとんど、又は全くならなかった 2.たまになった(半分よりかなり低い頻度) 3.時々なった(ほぼ半分の頻度) 4.しばしばなった(半分よりかなり高い頻度) 5.ほぼいつも、又はいつもなった ●性交の際、挿入後にどれくらいの頻度で勃起を維持できましたか 0.性交を試みなかった 1.ほとんど、又は全く維持できなかった 2.たまに維持できた(半分よりかなり低い頻度) 3.時々維持できた(ほぼ半分の頻度) 4.しばしば維持できた(半分よりかなり高い頻度) 5.ほぼいつも、又はいつも維持できた ● 性交の際、性交を終了するまで勃起を維持するのはどれくらい困難でしたか 0.性交を試みなかった 1.極めて困難だった 2.とても困難だった 3.困難だった 4.やや困難だった 5.困難でなかった ● 性交を試みた時、どれくらいの頻度で性交に満足できましたか 0.性交を試みなかった 1.ほとんど、又は全く満足できなかった 2.たまに満足できた(半分よりかなり低い頻度) 3.時々満足できた(ほぼ半分の頻度) 4.しばしば満足できた(半分よりかなり高い頻度) 5.ほぼいつも、又はいつも満足できた <結果> ・25~22 正常 ・21~17 軽症 ・16~12 中等ー軽症 ・11~8 中等症 ・7~5 重症 ◆合計点が21点以下の場合はEDの疑いがある。気になる場合は医療機関の受診を。 このような指標ではありますが、一つ問題が。 SHIMの場合、「直近6カ月間の性行為がどうであった」かを問うため、そもそもレスが多い日本の現状では、日本人男性6000万人のうち3600万人が低スコア、つまりEDだと判定されざるを得ないんです。 ーー国民の半数以上がED! これだと数字的なインパクトはかなり強くなってしまいますね。 こんな国、ほかにないですよね。海外で講演すると毎回驚かれますよ。かといって、レスだけど仲が良い夫婦もいっぱいいると言うと、なおさら信じてもらえません。海外では性行為をしていない夫婦が仲良くいられるなんてことはありえないとされていますから。 そういうわけで、ただでさえ性行為の回数が少ない日本人だとEDの実態が把握できないという結論に至り、別の指標「EHS」で調査を行いました。 EHSはアメリカで用いられている「Erection Hardness Score」をもとに改良されたもので、勃起した陰茎の硬さをジャッジします。マスターベーションや朝勃ちも含む「勃起した状態で十分な挿入ができるかどうか」で判定され、直接的な性行為の有無は問いません。 もしかしてEDかも? セルフチェック <EHS> ●あなたは自分の勃起硬度をどのように評価しますか? 1.陰茎は大きくなるが、硬くはない <硬さのめやす:こんにゃく> 2.陰茎は硬いが、挿入に十分なほどではない <硬さのめやす:みかん> 3.陰茎は挿入には十分硬いが、完全には硬くはない <硬さのめやす:グレープフルーツ> 4.陰茎は完全に硬く、硬直している <硬さのめやす:皮を除いたりんご> ◆1~2の場合EDと診断されます。3以上は性交渉に必要な勃起力はあると判定。 EHSによる調査の結果では、日本人男性の約1400万人がEDに該当するという数字が出ました。いずれにしても深刻な状況といえるでしょう。 ーー「EDだからセックスレスになる」のか、「セックスレスだからEDになる」のか、どちらが先というのはあるのでしょうか。 どちらも起因にはなりえます。一般的には、EDだから「性行為をしたくても上手にできない」→「相手との関係性がギクシャクする」→「今日は大丈夫かな、どうかな……とものすごく不安になる」→「気まずい雰囲気になるくらいなら、性行為から逃げたいと思い始める」→「セックスレスになっていく……」というケースはよくありますね。 もう一つのケースとしては、再婚したとか、数年のブランクを経て新しいパートナーができたなど、セックスをしていない期間がしばらくある場合。以前は問題なかったのにいざそういう状況になったら全然勃起しなくなっていて自信を喪失した……という人も多数います。 加齢による機能低下に加えて、久しぶりの状況でちゃんと勃起できるかどうかという緊張がストレスになると、なかなか勃起できないんです。 ーー不安があるとダメですよね……。大丈夫かな、と思うほど消極的になるという。 一度でも失敗すると、精神的なダメージは大きいですよね。それが心の重りのようになってしまって次の一歩が踏み出せず、さらにレスになっていく。やがて性行為自体から遠ざかってしまう……という悪循環はよくあります。妻を誘ったけれど断られた、などの失敗体験もEDになってしまう人を増やしています。