愛犬10年物語(2)番犬・同志・学園マスコット 世代超え劇団支えた犬たち
犬は人類の最古にして最高の仲間だと言われるが、家庭犬の存在は比較的新しい。我が国で、庭先に繋がれた番犬や猟犬に代わって、家族の一員として家の中で人と同じように暮らす犬が当たり前になったのは、ここ10年余りのことだ。ターニングポイントとなったのは、2000年代のペットブームであろう。そこから現在に至る『愛犬10年物語』。「流行」を「常識」に変えたそれぞれの家族の10年を、連載形式で追う。(内村コースケ/フォトジャーナリスト) 【写真】愛犬10年物語(1)「ただ見ているだけで幸せ」障害も日常に
もとは「番犬」だった
東京・八王子市の外れにある星槎(せいさ)国際高等学校の「星槎高尾キャンパス」を初めて訪れたのは、今年8月のことだ。星槎国際高は、全国にキャンパスを持つ「通える通信制」で、働きながら高校卒業資格の取得を目指す人や、プロスポーツ選手、不登校経験者など、あらゆるバックグラウンドの生徒を受け入れている。海外在住の子供たちや帰国子女の教育を執筆テーマの一つにしている僕は、最初は同校の海外生・帰国生の受入状況を取材するために、約1万5000坪の里山が丸々キャンパスになっている緑豊かな高尾キャンパスを訪問した。
郊外型の団地(一軒家が規則正しく並ぶ新興住宅地)の外れにある校門を抜けると、ゆるやかな坂道を150メートルほど上がった所に、1960年代風の石積みと鉄筋コンクリートのやや古びた事務所棟がある。その入口に、犬小屋が2つ並んでいるのが目についた。そして、その一つの前に年老いた柴犬が寝ていた。「おっ、学校犬だな。今時珍しいな」と嬉しくなっていると、初老の男性が近づいてきて、その犬に目薬を差した。それを見て、外飼いながら大事にされていることを直感し、その犬がここで暮らすようになった経緯を詳しく知りたくなった。そして秋に、今度はあらためて犬の取材をするために、2度目の訪問をしたというわけだ。
実はこの高尾キャンパス、学校であると同時にプロの劇団の本部でもあるという、変わった場所である。1950年に東京・新宿区に誕生した「劇団新制作座」が、その後稽古場を構えた杉並区井荻から、周囲を気にすることなく思い切り稽古に打ち込める場所を求めて移ってきたのは、1963年のこと。最盛期のその頃は180人もの劇団員がいて、15人にまで減ってしまった現在まで、役者からスタッフまでほぼ全員がこの土地で共同生活を送ってきた。