奇想天外な作戦が炸裂! 日本ハム「新庄剛志監督」が見せた2024年の“名&珍“場面集
「2者連続はよっぽど度胸がないとできない」
あっと驚く2者連続初球スクイズを成功させたのが、8月14日のロッテ戦だった。 2回に敵失で1点を勝ち越した日本ハムは、なおも無死二、三塁のチャンスに、ベンチのサインはスクイズ。「予想していなかった」という伏見寅威だったが、「執念」でメルセデスの低め直球に膝をつきながら、初球スクイズを決め、3点目を挙げる。なおも1死三塁から、次打者・水谷も「寅威さんの真似をしました」と低め球に膝をついて連続初球スクイズを成功させ、2人で貴重な2点を追加。試合も4対1と快勝し、一夜で2位再浮上をはたした。 前年6月24日の同一カードでは、同点の9回無死二、三塁で石井一成が4球目とフルカウントから連続スクイズ失敗で2走者がタッチアウト。その裏にサヨナラ負けしていたとあって、新庄監督は「男なら借りは返さなければいけないので、よく決めてくれましたね。選手たちは」とガッツポーズで喜びを表現した。 実は、この日行われた夏の甲子園大会で、母校・西日本短大付が大会最多の13点目をスクイズで挙げたことがヒントになったという。 この奇策については、元中日監督の落合博満氏も「2者連続のスクイズは、よっぽど度胸がないとできない」と称賛していた。
続投を表明した新庄監督の2025年は
守護神を5回に投入する大胆采配が勝利を呼んだのが、10月14日のクライマックスシリーズ(CS)ファーストステージ、ロッテ戦だった。 シーズン2位でCS初進出をはたした新庄監督は「ロッテさんに負けようが、ソフトバンクさんに負けようが、日本シリーズに行けなかったら一緒。そういう戦いをする」と宣言し、ファーストステージでは、リーグ最多タイの14勝を挙げたエース・伊藤大海を温存する。 初戦は0対2で落としたが、第2戦は1対2の9回1死から万波の同点弾で追いつき、延長10回に浅間大基タイムリーでサヨナラ勝ち。1勝1敗のタイに持ち込んだ。 そして、ファイナル進出をかけた第3戦、2対2の5回2死、先発・北山亘基が角中勝也に四球を与え、一発のある4番・ソトを迎えた場面で、新庄監督は2年連続20セーブを記録した守護神・田中正義を2番手で投入する。「ピッチャー・田中」のアナウンスに、スタンドがどよめいたのは言うまでもない。 「こういう試合の采配で誰をも喜ばせる、感動させるのも監督の仕事。今日の継投で失敗したとしたら、新庄アンチはお祭り騒ぎ(笑)。それも嫌いじゃないけどね。勝てば正解。負ければ、僕がボロクソに言われればいいだけのこと」という理由からだった。 田中正は見事期待に応える。ソトを156キロ直球で3球三振に打ち取り、鮮やかにピンチを切り抜けると、7回1死まで回またぎリリーフで、打者5人をピシャリと抑えた。 この“神継投”で流れを引き寄せた日本ハムは、7回に水野の決勝2点三塁打、8回に万波のタイムリーで計3点を挙げて、5対2でゲームセット。勝利の瞬間、5回途中まで試合をつくった北山も、3回に同点2点タイムリーを放った清宮幸太郎も、最終回のマウンドを無失点で締めくくった宮西尚生も涙、涙だった。 新庄監督も「選手全員の伊藤君が投げる姿をもう1回福岡で見たい、という気持ちがチーム一丸となっての今日の勝利」とナインの頑張りをたたえた。 ファイナルステージではソフトバンクに敗れ、日本一への“大航海”は完結に至らなかったが、去就が注目されていた新庄監督は、ドラフト後の10月29日に続投を表明。2025年も“12球団で一番面白い野球”が見られることになった。 久保田龍雄(くぼた・たつお) 1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。 デイリー新潮編集部
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