COVID-19は月の夜の表面温度を下げた ロックダウンによる地球の環境変化の影響
月の夜間温度にも影響があることが判明
ところで、地球大気で直接反射した太陽光や、一度吸収された後に一部が再放出した光は、宇宙空間へと逃げ出します。もし逃げ出した方向に月があれば、月の表面に光が到達します。日光が直接当たっていない月の影の部分がうっすらと見える「地球照」が起こるのは、地球からの光が月に届いていることの証拠です。 Prasad氏とAmbily氏の研究チームは、地球から月へと届く光の量に注目しました。月には大気が無く、自転速度も遅いため、表面に届く光の量の変化は、地球以上に激しい表面温度(地表面温度)の変化をもたらします。地球では、どんなに極端な場所でも昼夜の温度差は数十℃に留まるのに対し、月の昼間の表面温度が120℃、夜間の表面温度がマイナス170℃と300℃近い変化を起こすのはこのためです。 月の昼間には、太陽光が直接降り注ぎ、また地面の熱が他の場所へと移動するため、地球からの放射はかなり小さな影響に留まります。しかし夜間は、地球からの放射が唯一の放射源となるため、地球からの放射量が変化すれば、月の夜間の温度もまた変化することは十分に考えられます。 Prasad氏とAmbily氏は、アメリカ航空宇宙局(NASA)の月探査機「ルナー・リコネサンス・オービター(LRO)」が計測した地表熱放射測定装置「DLRE(Diviner Lunar Radiometer Experiment)」のデータを分析し、この予測を検証しました。LROは月面の同じ地点を1年に24回程度測定します。両氏は2017年1月から2023年2月までの計測データを元に、地形や緯度などの影響で生じるノイズが最小限と思われる6か所の表面温度を分析しました。 その結果、世界のほとんどの地域でロックダウンが行われていた2020年4月から5月にかけて、月の夜間の地表面温度が8~10℃低下していたことが分かりました。月の季節変化や太陽活動の変化は、これほどの温度の低下の原因になることは考えにくいため、両氏は表面温度の低下は地球からの放射量の減少にあると考えています。