“いい馬を育てられる、いい調教師”へまい進する田中克師のありがたい3人の師の存在とは
14日までにあと2勝を挙げれば、現役最速のJRA通算100勝達成だった田中克典調教師(37)=栗東=だが、結果1勝届かず、中内田師が持つ記録(3年7カ月15日)を塗り替えることはできなかった。2位・須貝師(3年7カ月21日)、3位・矢作師(3年8カ月16日)、4位・森秀師(3年9カ月22日)、5位・池江寿師(3年10カ月26日)と上位を挙げればその価値が分かる。 中内田師の達成後、7年間で最も迫ったのが田中克師。こだわっていたのもうなずける。「矢作師に中内田師。この2人は自分にとって大きな存在だから、それを塗り替えるという意識でスタートした」と師。ただ、手が届くところまで迫ってもスタイルは崩さなかった。「方針を曲げずに近づけるのか。自分を試したところもある。それで届かなければ仕方がない。やり方を変えておけばとは思わない」。無理使いはせず、必要以上に意識しないよう努めた。 21年3月に開業。想像していた以上に順調だった。「馬たちが早くから厩舎に慣れて引っ張ってくれた。転厩馬だから、新しい馬だから、という差を最小限に抑えられた。そしてスタッフの頑張りが大きい。早い段階で僕の方針に理解を示してくれて、それを形にしようと取り組んでくれた」。人馬への感謝は尽きない。 騎手6年、助手8年の経験に3人の調教師から得たものがブレンドされた。技術調教師として最も長く従事したのが藤沢和雄厩舎だ。「馬の管理、調教は藤沢ベース。先生から学んだことが自分の芯。今でも、あの時、先生はどう言っていたかな?先生ならどうするだろう?って考える」と師として仰ぐ。 矢作師の影響も大きい。海外でも結果を残すなど“厩舎力”の代表例だ。「みんなが理解を示してついてくれるか。矢作先生はそのコミュニケーションの取り方が上手。“調教師だけど経営者だから”って。バランス感覚の人」。義父だけに、疑問をすぐ解決できる環境だが、「答えを先に聞くのが好きじゃない。見て学ばせてもらう部分が多い。見て、自分がどう思うのか。合っているのか。プラスαで考えていたことがあったのか。近くにいてくれて、この距離感で見られるのはプラスしかない」とうなずく。 長く親交のあるのが中内田師だ。「中内田師がいなかったら、ここまで馬のこと、調教師業のこと、競馬のことを深く考える自分になっていなかったかも。負かすなら100勝と思っていたけど、200勝も最速。そういう人がいて良かった」。まるで先輩調教師を追い掛けることを楽しんでいるかのようだ。 今後の目標を聞いた。「いいペースで勝ち続けていきながら、大きいレースも勝てるように。馬たちがしっかりと頑張って走ってくれるように。その先にいろんな結果がついてくるかな」。そして、こう続ける。「藤沢先生が“ホップ・ステップ・ジャンプなんてない。毎日コツコツ頑張っていくこと。我慢強くやり続けるといいことがある”と。それが一番大事で、これだけは曲げていない。そして“いい馬を育てられる、いい調教師になりなさい”とも。そうなりたいですね」。 “最速”こそ逃したが100勝達成は目前。前述したトップ5に割り込むだろう。まだ37歳。新進気鋭のトレーナーに今後も注目したい。(デイリースポーツ・井上達也)