日本人同士の虐殺を描いた映画「福田村事件」の裏で、地元・香川は葛藤を抱えた 今も残る部落差別…それでも「教訓を継承したい」
100年前の関東大震災で、混乱の中、震源から離れた千葉県福田村(現・野田市)では、薬売りの行商団15人が自警団に襲われ、幼児や妊婦を含む9人が殺された。通称「福田村事件」だ。香川県からはるばる来ていた行商団が朝鮮人と間違われて殺されたとする説が根強い。 【写真】朝鮮人遺骨眠る寺で慰霊祭、千葉 25年前に6人発掘
映画「福田村事件」が現在公開中で、注目を集めている。しかし、被害に遭った人々の地元が困惑していることは、あまり知られていない。被差別部落出身という行商たちのルーツがクローズアップされ、地域が特定可能な映像がテレビニュースで流れるなど、差別の二次被害ともいえる状況が生まれている。 「そっとしておいてほしい」と願う住民がいる一方で、「ひどいやり方で殺された先祖を、きちんと弔ってやりたい」との声もある。いまだに理不尽な部落差別が残る今、地域は葛藤の真っただ中にある。 事件から100年の9月6日、千葉県野田市で犠牲者追悼行事があり、香川からも遺族が向かった。初めて因縁の地を訪れた男性は、何を思ったのか。(共同通信=牧野直翔) ▽事件のあらまし 福田村事件は関東大震災から5日後の1923年9月6日に起きた。襲った自警団は福田村と田中村(現・柏市)の人々。震災直後に広まっていた「朝鮮人が井戸に毒を入れた」などのデマにより、見慣れない行商らを朝鮮人と主張し、殺害したとされる。誤解がないように言い添えれば、本当に朝鮮人だったら問題がなかったわけではもちろんない。千葉の「福田村事件追悼慰霊碑保存会」は事件の原因について、市民の間にもともとあった朝鮮人への差別意識や、行商への偏見などが重なった「複合差別」と分析している。
▽寝耳に水 2020年冬、事件の被害者の故郷で町内会長を務めるカズトさん(仮名)の元に、知人からこんな連絡があった。「町がテレビに映っとるけど、大丈夫か」 「何のことや」と聞くと、福田村事件の映画化に向け、森達也監督が地域を取材に訪れ、同行した地元テレビ局が、その模様を放送したのだという。 寝耳に水だった。映画化の企画自体もこの時初めて知った。 部落差別と向き合う地域にとって、地名や場所がさらされることは生死にも関わる。町内会はすぐにテレビ局に抗議し、ユーチューブでも公開されていたニュース映像の公開停止を求めた。 問題は映画化だ。話題になれば地域にも注目が向くのは明らか。事件については2000年に香川県で「千葉県福田村事件真相調査会」が立ち上がり、本格的な調査が行われたが、それ以降は地域として積極的に関わっていない。今では事件の存在を知らない住民も多いという。カズトさんの脳裏に、地域で暮らす子どもたちの顔が浮かんだ。「事件を掘り起こせば、若い子たちが再び差別に遭わないだろうか」