阪急選手の憩いの場で「昭和のステーキサンド」復活 西宮の老舗洋食店
かつては阪急ブレーブス選手たちの憩いの場
真向かいの複合商業施設阪急西宮ガーデンズがにぎわう。かつては球音響く「阪急西宮スタジアム」で、阪急ブレーブス(現オリックス・バファローズ)が本拠を構えていた。 そのすぐ近くに位置する同店は、選手たちの憩いの場だった。ステーキサンド復活を決断し、プロジェクトを見守ってきたオーナーの玉置洋子さん。創業期から店を切り盛りしてきただけに、昭和の球場時代を懐かしむ。 「選手の皆さんが昼間は練習の合間にコーヒーを、試合後にはビールを飲みに当店へいらっしゃいました。有名選手もファンサービスに熱心な心やさしい紳士ばかり。選手同士の交流を通じて他球団の選手も足を運んでくださいました」 創業から3年目の75年、阪急は日本シリーズで広島を破って球団初の日本一に。余勢を駆って日本シリーズ3連覇の快挙を達成。福本豊外野手や山田久志投手をはじめ、いぶし銀の職人芸を磨き上げたスペシャリスト集団だった。プロ野球史を彩る最強軍団の一角と認めていいだろう。阪急黄金期、選手たちの快進撃を支えた活力源のひとつが、ステーキサンドだった。 激動の70年代。73年の第1次石油危機を契機に、翌74年には狂乱物価が発生し、経済成長率が戦後初めてマイナスを記録。戦後復興を発射台とした高度経済成長路線が途切れ、新たな道のりを模索する時代へ向かう。今とつながるように日本人の価値観やライフスタイルも多様化していく。
「心の中で思い出してもらうだけでうれしい」
店内を見渡そう。赤レンガと白いしっくい塗りの壁面に大小の石をあしらい、天井は山小屋風の屋根組み。ヨーロッパの木製アンティック家具を配置し、光量を抑えたシャンデリアが陰影に富んだ空間を醸し出す。 技巧を凝らした椅子の脚の様式も、細部の意匠が微妙に異なり興味深い。今となれば、すべての部材や家具を、ゼロからそろえるのは、至難の技だろう。内装や雰囲気も昭和の貴重な生活文化遺産だ。 生活文化は歳月の移ろいとともに、わずかながらも変化を重ねていく。ましてや料理の味わいは、人の心に宿る無形文化財。評価の基準を定めにくい。 「名物料理の復活は進化です。多彩な料理に満ちあふれた今、ただ当時の味を正確に復元するだけでは、美味しいと感じてもらえない。新しい時代の要素を生かしてこそ、美味しいと評価していただけるのではないでしょうか」(大谷さん)。 玉置さんは復活の手応えをどのように受け止めているのだろうか。「かつてのお客さまが懐かしさを感じたら、ぜひご来店ください。お住まいが遠いなどの事情で来店がかなわなくとも、心の中で当時を思い出していただくだけでうれしい」と謙虚に話す。 心に思うだけで懐かしさがこみあげてくる。郷愁の料理は強いインパクトを秘め、まちの記憶をも呼び起こす。起伏に富む昭和や去り行く平成へのオマージュとして、まちとともに生きる老舗料理店には、人々に愛された料理の復活を期待したい。詳しくは土筆苑の公式サイトで。 (文責・岡村雅之/関西ライター名鑑)