ウナギの生態、新事実の発見と深まる謎
何を餌にしている?
動物が食べている餌を調べる方法は大きく2つ。一つは胃の中身を調べる方法、もうひとつは炭素や窒素など、同じ元素で重さが異なる安定同位体の比率を調べる方法です。これにより、ウナギの成魚は淡水域と汽水域(淡水と海水が混合したところ)で環境に応じて餌を変え、雑食かつ肉食で、カニや小魚、エビなどを食べていることがわかりました。 実は、私たちが口にするウナギのほとんどは、ニホンウナギの稚魚「シラスウナギ」を飼育した養殖もの。「シラスウナギ」の減少は、養殖市場にも大きな影響を与えます。そのため、人工的に「シラスウナギ」を生産する「完全養殖」技術の確立が長らく渇望されていました。しかし、研究は難航しています。理由は、レプトセファルス(幼生)の餌がわからないから。食べているものがわからなければ、育てることができません。 研究が進むにつれ、レプトセファルスの餌は「マリンスノー」と呼ばれる海の中に浮かぶ動物プランクトンなどの死骸だったことが判明。しかし、餌がわかっても水槽内でそれを再現することは難しく、さらに現場海域まで採取して稚魚に餌を与えるのは膨大なコストがかかるという課題がありました。 試行錯誤の結果、サメの卵を使用した餌が有効なことがわかり、稚魚を育てることに成功。2010年、水産総合研究センター増殖研究所の研究チームが世界で初めてウナギの完全養殖が実現しました。 ただし、餌以外にも飼育環境の設備コストなどもかかります。現段階ではまだまだ費用がかさみ、ウナギの完全養殖を採算ベースに乗せるには、より多くの時間を要すると見られています。
さらに謎が深まる?
産卵場所や食性がわかってきているのに、なぜウナギは依然として「謎が多い」とされるのでしょうか。これについて、『わたしのウナギ研究』(さえら書房)の著者・海部健三さんは、同書の中で2つ理由を挙げています。 1つは「長くい間、謎が多い魚とされていた」ため。つまり、ウナギの生態は謎に包まれているという先入観が強くあるためと考えられます。もう1つは、「少しわかってきたからこそ、より謎が深くなる」というもの。たとえば、産卵場所がわかったことで、「なぜ海で生まれたのに河川へ入るのか」「どうしてわざわざ遠い東アジアまで泳いでくるのか」「親のウナギは何を頼りに産卵場までたどり着くのか」といった新たな謎が生じ、深まっているというわけです。
ウナギの生育調査は進行中
環境省は7月15日、ニホンウナギの国内での生息分布や保全に必要な河川の環境に関する調査を始めました。場所は神奈川県小田原市の酒匂川(さかわがわ)の支流です。 具体的な方法は、サンプルとして約200匹のニホンウナギの稚魚や成魚を網などで捕獲。それぞれのウナギに個体を識別するICタグなどをつけて放流し、行動を追跡するそうです。依然として明らかになっていない河川での生息状況を明らかにし、ウナギが育つ環境を保全する狙いがあります。 (南澤悠佳/ノオト)