【連載】ドクター深見の歯の雑学 目指せ大谷翔平 歯と野球の関連性を考える
一般人はもちろん、芸能人やアスリートにとっても「歯」は見た目やパフォーマンスに大きな影響を与える重要な要素となっている。日刊スポーツコムでは東京・江戸川区にある人気歯科医院、宇宙歯科クリニック深見隼人先生を講師役に、毎回テーマごとに解説を聞く「ドクター深見の歯の雑学」を連載中。第2回は「野球と歯」について。今年は米メジャーリーグ、ドジャース大谷翔平選手の活躍などで注目を集め、国内最大人気スポーツと言っても過言ではない野球と歯の関連性について聞いた。 ◇ ◇ ◇ 深見 実は私も小学生から高校まで野球部でした。ポジションはショートやサード。トレーニング時はよくマウスピースを使っていましたね。 マウスピースとはスポーツ中などに歯を保護するために使うカバーのようなもので、かむ力を強める効果も期待されている。 深見 マウスピースをつけるとかむ力がおよそ10%上がるといった話もあります。野球はただ力めば良いといったスポーツではないですが、打撃時などパワーが必要な場面はあるので、一定の効果は期待できると思います。国内では吉田輝星投手(オリックス)がマウスピースをつけていますよね。投手はもちろんホームランバッターなど、歯においても強い踏ん張りが必要な選手には有効だと思います。 野球中継ではよく選手がガムをかみながらプレーしている光景も見られる。 深見 ガムを口に入れていることでそしゃくを生み出しますよね。これはまたマウスピースとは違う効果があり、緊張をほぐしたり、気分を楽にすることが期待できると思います。 メジャーリーグでは今年は大谷翔平選手も所属するドジャースがワールドチャンピオンに輝くなどし、大きな話題を呼んだ。深見氏は各選手の歯にも注目して試合を見ていたという。 深見 ムーキー・ベッツ選手はかなりきれいな歯をしているなと思いました。ヤンキースのジャッジ選手やソト選手もきれい。やはり米国の選手は文化的にも歯並びが全体的に整っていますね。かみ合わせもしっかりしていると思いますし、直せる部分をかぶせものに替えたりしているパターンもあるので、そうした部分でも差が出ているのかもしれません。大谷選手も歯並びは悪くなさそうですよね。現状マウスピースは使っていないようなので、少し歯がすり減っている可能性はあるかもしれません。常人には考えられない力が加わりますからね。大谷選手はホームランはもちろん盗塁もされるので、出塁後もそのままつけ続けると良いかもしれません。少しダッシュ力にも変化が出たり、打撃の飛距離がさらに伸びる可能性もあります。投手時に使用したら、夢の170キロの剛速球が投げられるかもしれませんね(笑い)。 人体からのパワー発揮に大きな影響を及ぼすという歯だが、やはり自前に劣る者はないという。 深見 かぶせものの歯は自前の歯よりも硬いです。セラミックですと約2倍、ジルコニアですと約4倍です。しかし、硬いからといって力が出るわけではありません。自前の歯はグッとかんだ際にはある程度たわむんです。かぶせものだとそれがありません。柔軟性がないと、そこからかみこんでさらなるパワーの発揮につながらないので、やはり自前の歯の方が良いと言えます。一部がかぶせものだった場合でも均等な力が入りづらくなります。天然に勝るものはないということですね。 かむ力はあごの筋肉とも密接に関連している。現代人は硬いものを食べる機会が少なくなってきており、深見氏もそうした食文化の変化への懸念を口にした。 深見 現代の方は昔に比べるとあごが小さくなってきている傾向があります。まずはしっかりと発達した土台の骨が重要で、そこに筋肉がつくことが理想です。口周りの筋肉は首などにもかけてとても細かいものが多く、それぞれが組み合わさって開閉の動きを担っています。なかなかピンポイントで鍛えることは難しいと言えます。野球選手は首が太い人が多いですが、それも筋肉のひとつですよね。首がぶれないことはかむ力にもつながってくると思います。 最後に、これから大谷選手らに憧れて野球に励む少年、少女たちへのメッセージも聞いた。 深見 まずはご両親としっかり相談して自前できれいな歯並びをつくっていく。矯正などをする場合は費用もかかりますが、将来的にはメリットの方が大きいと思います。最近は親知らずを抜く方も多いですが、かつての北京原人など昔の人類は歯しっかりとたくさん生えているんですね。ガリガリといろんなものを食べていましたし、口内のも生えるスペースがあった。数はもちろんサイズの大きい奥歯がより多くあった方がパワーも出ますからね。現代でもちゃんと生えていれば親知らずも抜く必要はないと思っていますし、毎日のケアをしっかりとして、練習や試合などでは必要に応じてマウスピースなども試してみる。これだけでもパフォーマンスに違いが出てくると思います。 (ニッカンスポーツ・コム「ドクター深見の歯の雑学」) ◆深見隼人(ふかみ・はやと)1990年(平2)2月16日生まれ。神奈川歯科大歯学部歯学科を卒業し、日本歯科大での勤務などを経て2023年1月から宇宙歯科クリニックで働く。麻酔を得意としており、歯科麻酔科医として全身麻酔、静脈内鎮静法を用い、多様な疾患に対応できる医療の提供を全国出張にも出向きながら行っている。歯科麻酔学博士号、日本歯科麻酔学会認定医、日本有病者歯科医療学会認定医、日本歯科薬物療法学会専門医。 ◆宇宙歯科クリニック 「オーラル(お口の中から)、トータル(全身)へ」。廣神崇史院長以下、30代の医師を中心に、各ジャンルの専門医が在籍する歯科医院。2023年1月に東京メトロ東西線、西葛西駅から徒歩2分の地にオープンし、全国から通い詰める人も多い人気医院となっている。院長によるYouTubeチャンネル「ドクターひろかみん.」には深見氏らも出演し、歯にまつわる知識を紹介している。