オリックス宮内義彦「教育を変えないと日本はダメになる」その打開策とは?【和田秀樹対談⑥】
規制緩和が進まないのは政治家が行政に勝てないから
宮内 いや、規制緩和は得意なわけではありません。実際は挫折の連続でした。 和田 でもやはり、まずは教育ですから。おもしろい大学を創らなきゃ。 宮内 本当は日本もアメリカのように、国が大学に関与する必要なんてないと思うんです。 和田 仰る通りですね。なのに日本は大学がお金を稼げないので、文科省の補助金に頼らざるを得ない。その代わり、言いなりになってしまうんです。東大でさえ独自で稼げませんから。 宮内 規制改革会議では非常にラディカルに、補助金を学校に出すのではなく、全部学生に給付して「学校を選ばせる」という案が出たんです。そのやり方をすれば、文科省と大学との関係が切れていきますから。 和田 いいアイデアですね。でもまったく動かない。 宮内 実施されたら文科省の権限はなくなりますから。 和田 結局、そうやって既得権益を守っているわけです。やっぱり宮内さんのような財界の代表が折れずに提言をしていくしかありませんね。あるいは、よほどちゃんとした政治家に出てきてもらうしかない。 宮内 そうですね。ただ、政治家は行政になかなか勝てないんです。 和田 そうですね。 宮内 ああ、いけません。嘆き節になっています(笑)。
文化は守らないといけない
和田 音楽はクラシックを? 宮内 はい。音楽会に行って聴くと気持ちがいい。経済界の人はあまり行かないから、楽団の理事長を仰せつかりました。小澤征爾さんの作った「新日本フィルハーモニー」です。 和田 それはすごい。 宮内 苦心惨憺(さんたん)しています(笑)。楽団は年がら年中お金が足りないわけです。文化の維持にはお金がかかります。豊かな社会とは文化が花咲いているものです。その意味でも国、民間、個人いずれも大切思って支持してほしいものです。 和田 日本では文化にお金を出す人が少ないですからね。 宮内 オーケストラも、昔はドイツの王侯貴族が楽団を持ち、今はお金持ちがサポートして維持しているわけです。だけど、日本のお金持ちは、なかなか寄付しない(笑)。会社も、文化にはお金を出したがりません。 和田 文化は守らないと。 宮内 仰る通り。一回消えると復活しないんです。 和田 日本では大衆文化が盛んです。これは世界的に見ても稀有でしょうね。最大の成功例は大衆がお金を出すアニメです。やはりお金が動くことで文化は発展するんですよね。 宮内 日本は歌舞伎もあるし、能や狂言もある。日本文化があって、そこに西洋文化が入ってきた。日本人ほど多彩な文化に触れる国民はないんです。明治期に入ってきた西洋文化は、今は世界のトップレベルです。国内と国外、両方をエンジョイできる国民は少ないんです。だからもうちょっと、なんとかしたいんですけどね。 和田 文化にお金を出さない。これも日本の問題点です。 宮内 ただね、コロナの時だけは国が頑張ってくれましたね。極めて意外でしたが、おかげでオーケストラは潰れずにすみました。 和田 音楽には、心を落ち着かせるという健康効果もあります。日本の医療は薬が中心で、カウンセリングなどは二次的です。そんななかで、大衆文化は日本人の心の救済に大きく貢献していると言えます。例えば、アニメやアイドルを含む音楽もそう。あるいは、文化と言えるかはわかりませんが、居酒屋さんの自棄酒なんかもそうでしょう。医者が話を聞いてくれない分、大衆文化が心を支えている側面は大いにあると思っています。 宮内 我々の年齢だったら歌謡曲かな。しかし女性の悲哀を歌ったような歌謡曲はやはり時代に合わなくなりました(笑)。 和田 そうですね。戦後の復興は歌謡曲と共にありました。 宮内 やはり人生はおもしろいですよ。いろいろと日々新たに前向きに生きてこそ元気が出るものだと思っています。 和田 人生をおもしろいと言ってくださる先達は、私たち後輩にとって大きな心の支えです。今日はありがとうございます。 宮内 こちらこそ、いい話をお聞きできました。ありがとうございます。 和田秀樹/Hideki Wada 精神科医。1960年大阪市生まれ。東京大学医学部卒業。現在、立命館大学生命科学部特任教授、和田秀樹こころと体のクリニック院長。老年医学の現場に携わるとともに、大学受験のオーソリティとしても知られる。『80歳の壁』『70歳の正解』など著書多数。 宮内義彦/Yoshihiko Miyauchi オリックス シニア・チェアマン。1935年兵庫県生まれ。1960年ワシントン大学経営学部大学院でMBA取得後、日綿実業(現・双日)を経て、1964年オリエント・リース(現・オリックス)入社。社長・グループCEO、会長・グループCEOを経て現職に。著書は『諦めないオーナー』など多数。
TEXT=山城稔