「阪神優勝の確率はゼロ!いまのままではね」下柳剛が古巣の貧打に喝!「打てんのなら走れ!」
盗塁が打線にもたらす効果は大
日本一になった昨シーズン、阪神の盗塁数はリーグ1位(79)だった。それが今シーズンは交流戦が終わった段階でリーグ最下位(21)。昨シーズンと大きく選手が入れ替わっているわけでもなく、本来であれば足を絡めた攻撃を継続できるはずなのにできていないのが現状。できることから改善点を探っていくのであれば、この「盗塁」を重視することが最も効果的だろう。 盗塁はランナーが次の塁へ進む意味でも大きいけど、効果はほかにもたくさんある。「盗塁がある」とピッチャーに警戒させることで、“いいスタートをきられたくない”という心理がはたらく。そこでクイックを速くしようとすればミスが生じる可能性が増えるし、ワンバウンドすることを怖れ落ちるボールを使う回数が減り、球速が落ちることを怖れカーブを使う回数も減る傾向が強まる。 となると配球的にはストレートやスライダーの割合が増える。相手ピッチャーに盗塁ひとつ意識させることで、打者に配球の的を絞りやすくさせ、落ちるボールを投げてきたとしてもコントロールを甘くさせる可能性も高める。結果、打者がヒットを打ちやすい状況をアシストすることができる。 打線は水物。現在不調の打線がいつ好調になるかもわからないし、好調の打線がいつ不調になるかもわからない。ただ、だからといって手をこまねいていたのでは運頼みになってしまう。そこでスランプのない「足」を取り入れることで、具体的に打線の調子向上のきっかけを作る。今、阪神に必要なのはこの「積極性」だ。
足を積極的に使う「勇気」が必要
そう考えると、近本は1番に据えるのが得策だろう。交流戦では4番に座ることもあった。やはり得点圏打率が上がらず、どうしてもタイムリーがほしい中での苦肉の策だっただろう。でも、今の阪神が優先すべきは、近本の打つ確率よりも足の確率。彼が1番で切り込み隊長となり、果敢に足でかき回すことで打線に変化の刺激が加わる。 2番の中野は今シーズン、あまり走れていない。もしこれが昨シーズン同様に走れるのであれば1番中野、2番近本でも面白いかもしれない。近本はボールを引っ張りこんで強い打球が打てるから、先に中野が出塁すれば1、3塁の状況を作り出すシーンが増えてくることも考えられる。どちらにせよ、昨シーズン走れていた選手を皮切りに足を積極的に使っていく「勇気」を出すことが現状を変える第一歩になる。 この「勇気」をもって緊張感ある場面でも足を使えるようになれば、単独スチールも二盗だけではなく三盗も、それ以外でもエンドランを絡めていきたい。絶対的なクリーンナップとはいえない現状であれば、3番、4番、5番が打者の時でもエンドランを使っていい。 そういった緊張感をもった積極走塁が増えれば、自然と意識も高まり走塁ミスも減るはずだ。「暴走と好走は紙一重」とはよく言うけど、出されたサインの意図や意味をしっかり理解し、ひとつひとつのプレーの認識を今一度しっかり行って準備すれば走塁ミスは減らせる。なぜなら、バッティングやピッチングと違い、走塁は判断ひとつ。しっかり意識さえすれば改善できる。 昨シーズン同様、阪神は四球をもらう数は多い(交流戦終了時点で211はヤクルトに次ぐリーグ2位)。それは維持しつつ、武器であるはずの足を絡めた攻撃を取り戻す。それで得点力が増せば、ピッチャー陣の負担をやわらげることができる。 ---------- プロフィール 長崎県出身。1990年ダイエーにドラフト4位で入団。1996年、日本ハムへ移籍。先発・中継として活躍し、60試合以上登板が4度という鉄腕ぶりを発揮した。2003年に阪神へ移籍し、黄金期の中心ピッチャーとして9年で5度の二桁勝利。2005年には史上最年長で最多勝を獲得した。2013年の現役引退後は解説者として活躍する一方で、釣りやアウトドアなど趣味をいかした番組にも多数出演。 柳に風【下柳剛公式チャンネル】https://www.youtube.com/@yanaginikaze ---------- ・・・・・・ 後編記事『「阪神ナインよ、火・金に全力を注げ! 下柳剛が提言する「”アレンパ”への逆襲策」』では、リーグ戦再開後のタイガースはどのように戦っていくべきか、下柳さんが解説します。
伊藤 亮(編集兼ライター)