「みんなノリノリで演じていた」映画『ゼンブ・オブ・トーキョー』熊切和嘉監督インタビュー。日向坂46四期生との共演を語る
自由な演技を引き出す演出術
―――全員である作戦を決行するシーンでは、キャストの皆さんの表情がとても生き生きとしていて、印象的でしたが、このシーンについてお聞きできますか? 「あのシーンはもちろん台本にもありましたが、現場ではより全員が活躍できるように少し膨らませました。自分なりにかなりシミュレーションをして臨んだのですが、現場ではとにかく時間が足りなくて、本当に鼻息荒く走り回って撮影した感じです(笑)。 それでも、キャストのみんながその場のライブ感を楽しんで、『これは絶対に失敗できない』という思いでノリノリに演じてくれていたと思います」 ―――撮影現場で印象に残っているエピソードを教えてください。 「東京の街中での撮影は特に印象的でしたね。最初は『顔バレしないように』、『撮影許可をきちんと取って』と気を使っていたんですけど、途中から『もういいや!』って(笑)。池袋の人混みの中で普通に撮っていました。『映画を撮っているだけだから、悪いことはしていない』って自分に言い聞かせて(笑)。その開き直りが結果的に臨場感を生んだと思います」 ―――皆さんの表情には、演技以上に素の部分も垣間見えている気がしました。 「できるだけ空間を広く使い、自由に動いてもらうように心がけました。そうすることで、割と自由にのびのびと演じてもらえていたと思います」
待ち時間も笑いが絶えない自然体で生まれる掛け合い
―――海辺ではしゃぐシーンなど、同期の皆さんとのリアルな絆が強く感じられました。彼女たちの等身大の表情を映し出すために、特に心がけたことはありますか? 「あのシーンに関しては『とにかく楽しんで。たまにカメラの方を向いてくれさえすればいいから』と、あとは自由にやってもらっていました。 実際、みなさん楽しんでやっていたと思います。ただ、最初のテストの段階ではしゃぎすぎると疲れてしまうので、少し疲れが見える子もいましたが(笑)。それでも非常に良い撮影ができましたね」 ―――とても楽しそうな現場ですね。ひとりひとり演出するのも大変だったと思いますが、印象に残っている方はいますか? 「自分の素に近い役柄の子はスムーズに演じられていましたが、例えば清水さんが演じた角村のように、普段の性格とは異なるキャラクターの場合は少し苦労していました。 清水さんには、サバサバした男前な感じで演じてもらったのですが、ご本人にはあまりない一面だったと思います。難しい役所でしたが、本当に熱心に頑張ってくれましたね」 ―――熊切監督のお話から、とても楽しそうな現場の雰囲気がわかりますが、11人もキャストがいると大変だったこともあったのではないでしょうか? 「大変でしたけど、彼女たちの仲がとても良かったので助かりました。待ち時間もみなさんずっと一緒にいらっしゃって、自然と等身大の彼女たちを撮れたのではないかと思います。 普通の俳優同士だと、別の事務所同士ここまでの一体感はなかなか生まれませんから。何度か撮り直したシーンもありましたが、ずっとおしゃべりしてて、そのままのノリで自然に役同士の掛け合いに発展することもありました。 僕は現場中はヘッドホンでセリフを聞いていますが、本番に入る前もずっとおしゃべりしているので、本番中以外はうるさくて外していました(笑)」 ―――本作の修学旅行という設定は、彼女たちにとって非日常を象徴していますが、同時にアイドルという本業を離れ、演技に挑んだことももう1つの非日常だったのではないでしょうか。今回お話を聞いていて、彼女たちにとって熊切監督は、まるで先生のような存在だったのでは? と感じるのですが、その点についてはいかがでしょうか? 「とにかく時間に追われている現場で、終始僕も含めてスタッフ全員が慌ただしく駆け回っていたのですが、その中でも僕としてはとにかく彼女たちをしっかり見てあげようという思いがありました。そういう意味では先生のような存在だったかもしれません」 (取材・文:タナカシカ)
タナカシカ