良い聞き手がつくっている「話しやすい」環境とは? 本当に他者の話を「聞いて」いますか?
【人との関係性を変えるコミュニケーションとは?・7】 突然ですが、他者の話を「聞いて」いますか。「そんなの当たり前、ちゃんと聞いています」と答える人が多いと思います。相手の話を聞くことが大切だということは、広く認識されています。ですが、実際には「聞く」という行為について本当に理解している人は稀です。それは、組織にいるリーダー、マネージャーも同じです。多くの人は「聞く」ことがマネジメントで重要なことだと理解していながら、実際に「聞く」トレーニングを受けた経験がある人はほとんどいません。そこで、良い聞き手になるための基本の第一歩として、「聞くための環境づくり」を紹介します。 ●相手が話しづらくなる五つの態度 「相手の話をちゃんと聞く」ということは、相手が言葉で表現している以上のもの、相手自身もまだ気づいていない自分の中のパターン、欲求、課題などを聞きとり、聞き分ける行為です。さらに、相手に、聞き分けたことをフィードバックや質問という形で示すことで、新しい視点を提供するという、極めて高度で能動的な行為でもあります。このように高度なレベルで「聞く能力」を上げるためには、学びを通じて「聞く」ということへの本質的な深い理解が必要です。 皆さんが、誰かと会話をしているシーンを振り返ってみてください。相手が話しているとき、聞き手の私たちは、集中して話を聞いているつもりです。 しかし実際には、無意識のうちに「次に、自分は何を話そうかな」と考えていることはないでしょうか。あるいは、「その意見は違うと思うなぁ」と相手の話の内容を評価したり、「そういえば、次の会議の準備をしなくちゃな」と全く違うことを考えていたり、「いま言っていたことはよく理解できなかったけど、まぁ、いっか」と相手の伝えたいことを確認しないままにしたり…はたまた、相手がまだ話しているにもかかわらず、その人の話を遮って自分の意見をしゃべり始める人もいるかもしれません。 「聞くことが大事である」と、どんなに頭で理解していたとしても、実際にいつも、どんな状況の時でも「相手の話をちゃんと聞く」というのは意外と難しいものです。ここで、相手が話しづらくなる代表的な五つの態度をご紹介します。 ・攻撃的な態度 「途中で口を挟む」「険しい顔をする」「指で机をコツコツたたく」など ・優位に立とうとする態度 「相手が話したことをすぐに論破しようとする」「話の内容の勝ち負けなどで自分の立場を示そうとする」など ・心ここにあらずの態度 「視点を合わせようとしない」「相手の話に対して、興味がなさそう」など ・傲慢な態度 「足を組む」「椅子の背にふんぞり返る」など ・神経質な態度 「ペンをいじる」「足を小刻みに揺らす」など こういった態度をとってしまっているな、と思い当たることある一方、相手はこのような態度が気になっていても、自分では気づいていないという場合もあるかもしれません。いずれにしても、相手はこのような態度から、「自分の話は聞いてもらえてないな」「自分の話は大事ではないのかな」と思ってしまうことでしょう。人によっては、自分の存在そのものが否定されたような感覚になるかもしれません。特に、チームや部署を任されているリーダーやマネージャーがメンバーに対してこのような態度を示していると、良好な関係が築けない危険性があります。 ●良い聞き手になるための10の環境づくり では、このような態度を避けて良い聞き手になるためには、どのような環境をつくっていけばよいのでしょうか。 時間をつくる まずは、5分でも10分でも、相手のために時間をつくることが大切です。日常的に、または定期的に時間をつくることは、相手にとって「自分の居場所」を感じることにもつながります。 相手を尊重する 話を聞くとき、相手の意見や考えを尊重することが大切です。「そう思っているんだね」「話してもらってよかった」など、相手を承認する言葉を入れると、尊重していることがより伝わりやすくなります。 話しやすい環境を用意する 「個室をとる」「静かなところに行く」など、話しやすい環境を用意しましょう。 最後まで話を聞く 相手がまだ話している最中に、「そうじゃなくて…」「要するに、こういうことでしょ」などと遮ってしまった経験はありませんか。相手の話を最後まで聞き、ときには相手が話し終えたあと、数秒待つことも時に効果を発揮します。相手が心の奥底に秘めていた思いを口にすることもあるからです。 判断しない 話を聞いた後、「自分ならこう思うけど」「それは違うんじゃない?」などと聞き手が判断を加えることは、「あなたの言うことは受け入れられない」というメッセージにつながってしまうので、注意が必要です。 自分が理解しているかどうかを確認する 「話をまとめると、このように言っているように聞こえます」「こういうことを言っている?」など、聞こえたことをそのまま相手に返して、自分がきちんと理解しているかどうかを確認するのは有効な手段の一つです。相手は「この人は、自分のことを正しく理解しようとしてくれている」と実感できます。 客観的になる 感情や先入観が、聞くことの妨げになることがあります。良い聞き手は、自分の考えや感情を脇に置き、客観的な立場に立って、聞くことに専念できます。 肯定的なノンバーバル・メッセージを出す コミュニケーションには、バーバル(言葉によるもの)とノンバーバル(言葉以外のもの)の2種類があります。相手の話を聞く際は、「目を見る」「相手のほうに身体を向ける」「パソコンから手を離す」など、「聞いているよ」というメッセージをノンバーバルでも示すことがポイントです。 沈黙を大切にする 沈黙が訪れると、その間に耐え切れず、自分から話を始めてしまう人がいますが、そのときはぐっとこらえてみてください。せかすことなく相手が話し始めるのを待ってみることで、相手が自身の内側からアイデアや思いを言語化する可能性が高まります。 聞くことに最大限コミットする ポイントの最後は、「話を聞くことが、最終的に相手の目標達成につながる」と信じ、聞くことに最大限のコミットをすることです。 ●「聞く」という行為はとても奥深いもの 今回は、良い聞き手になるための基本の第一歩である「環境づくり」を紹介しました。「聞く」という行為はとても奥深いものです。今以上に広い視野を持って、聞く能力に磨きをかけたいのであれば、良い聞き手になるための学びを深めてみるのもおすすめです。(コーチ・エィ・片桐多佳子) ■Profile 片桐多佳子 コーチ・エィ 執行役員 東北大学経済学部卒。コーチ・エィでは経営層を対象としたエグゼクティブ・コーチングを行い、200人以上のビジネスリーダーへのコーチング実績を持つ。「組織インパクトを出す」コーチングにこだわり、組織風土変革、業績向上、部門間連携強化などのニーズに対する、エグゼクティブ・コーチングやコーチングプロジェクトの設計、マネジメントを多数手がける。組織変革のプロセスを企画から成果創出までトータルに支援している。2016年より執行役員。国際コーチング連盟プロフェッショナル認定コーチ、生涯学習開発財団認定マスターコーチ。