かつてのスマホ王者、HTCは「どこでも手軽にVR空間を作り出す」、アップルとは対照的な戦略でシェア拡大を狙う
実際、日本市場ではこの戦略が功を奏している。小山氏によれば、「日本はトラッカー利用率が非常に高く、北米市場と並んで重要な市場となっている」そうだ。特にVR ChatやVTuber文化の隆盛により、フルボディトラッキングへの需要が高まっている。ベースステーションとトラッカーを市場に出すだけで、あっという間に売り切れてしまうそうだ。 いわばコバンザメ戦略だが、HTCは周辺機器からVRエコシステム全体での存在感を高め、直接的なヘッドセット販売に依存しない新たな収益源を確立したと言える。高いクオリティの周辺機器で培ったブランドを背景に、ハイエンドなVRヘッドセットを訴求するという好循環を目指している。
■空きテナント活用で広がるVRの裾野 HTC NIPPONのもう1つの独自戦略が、ロケーションベースエンターテインメント(LBE)と呼ばれる「即席VRスポット」の展開だ。LBEとは、特定の場所に設置されたVR機器を使用して、その場所にいる複数人で体験できる没入型のコンテンツを提供するサービスを指す。従来のVRアーケードやテーマパークでのVRアトラクションなどがこれに該当する。 HTC Viveではクラウドベースのシステムにより、コンテンツの一斉配信や管理が容易になっている。数十万円の資材を用意して、30分で機材を設置すれば展開できるという。小山氏は「私が目指したいのはショッピングモールとかアウトレットの催事場や、空きテナントが生じた商店街で活用すること」と語る。
また、LBEで子どものVR体験を促進したいと強調する。「ターゲットは小学生です」と小山氏。VRを早期に体験させることで、将来のユーザー層を増やす狙いがある。 その具体例として、北海道紋別市の市立博物館での取り組みがある。2024年8月に実施されたイベントで、25m四方の博物館の入り口のスペースを間借りし、VRゲームの体験スポットを設置した。 この体験では、通常なら数百万円規模の設備が必要なLBEを、極めて低コストで実現している。