全国高校サッカー選手権で見るべき5人の逸材
【西野太陽】[FW/京都・京都橘3年/180cm・67kg] 小学生のころにテレビ越しに抱いた、2度目の出場で選手権準優勝を果たした京都橘への憧憬の思いを中学卒業時に目標へと変えて、生まれ育った徳島県から入学して3年目。サイズを生かしたポストプレーに加えてエースの自覚も芽生えた西野太陽の姿に、米澤一成監督はある決断を下した。 「西野を中心により攻撃的なチームを目指したなかで、前線に人数を割くために、京都橘として初めて3バックを採用しました」 福知山成美との京都府大会準決勝で4ゴールを、大晦日の松本国際(長野)との1回戦では2ゴールをゲット。期待に応えてきた西野だったが、昌平との2回戦は無得点に終わった。ゴールの匂いすら伝わってこなかった80分間へ、米澤監督はあえて厳しい言葉を贈っている。 「ボールの受け方やボールをもっていないときの駆け引きがないと、より屈強なディフェンダーと対戦したときに、ゴールを奪えるストライカーにはなれない」 恩師のエールを金言として脳裏に刻みながら、中学生年代を下部組織でプレーした、来シーズンからJ1に復帰する徳島ヴォルティスで新たなチャレンジをスタートさせる。 【藤井陽登】[GK/栃木・矢板中央2年/182cm・75kg] 前回大会で1年生ながらレギュラーを担い、矢板中央の3位躍進に貢献した大会優秀ゴールキーパーが背番号を「12」から「1」に変えて、選手権の舞台に帰ってきた。しかも、今大会の初陣となった徳島市立(徳島)との2回戦でも勝利のヒーローとなった。 1-1のまま突入し、ともに5人ずつが決めたPK戦は6人目で突然の終焉を迎えた。先蹴りの矢板中央が成功し、後蹴りの徳島市立の一撃を完璧に弾き返した守護神は「自分が1本止めて、勝つつもりでいました」と緊張感と興奮が目まぐるしく交錯した攻防を振り返った。 「PK戦では味方が全部決めてくれると信じていたし、PKストップには自信があったので」 もっとも、5本目までは自信がやや空回りした。すべて逆のコースを突かれて、成功を許し続けた理由を「ちょっと先に動いてしまったし、相手も自分の動きを見てくる感じだったので」と分析した。 「なるべく先に動かないようにして、ちゃんと構えて跳ぼう、という思いで最後は入りました」 読みに頼るのではなく、蹴られた刹那の瞬発力で勝負する。前回大会の大分(大分)との1回戦、4年連続11度目の選手権出場を決めた宇都宮短大附属との栃木県大会決勝と、PK戦でひときわ強烈な存在感を放つ守護神は、前回大会を超える決勝進出を見すえて最後尾からチームを支え続ける。 【松木玖生】[MF/青森・青森山田2年/178cm・73kg] 青森山田が輩出したワールドカップ日本代表を引き合いに出しながら、黒田監督が「柴崎(岳=現・CDレガネス)が1年生のときよりも、肝がすわっていますよね」と目を細めたことがあるルーキーが2年生になり、エースの証である「10番」を背負って帰還した2日の今大会初陣で、均衡を破る先制点を叩き込んだ。 守備を固める広島皆実の前に突破口を見出せないまま迎えた後半5分。ペナルティーエリア内の右側へ走り込んできた、右サイドバックの内田陽介(3年)がマイナス方向へ折り返したボールに、利き足の左足をワンタッチで合わせてゴール左隅へ叩き込んだ。 4ゴールをあげた前回大会に続く一撃にも、大物のオーラを漂わせる17歳は「(ゴール数の目標は)特にありません」と言い切る。 「チームに一番貢献したいし、それが自分のゴールならば最高です。その意味でも、決定力は常に改善していかなければいけないと思っています」 ピッチ上でふてぶてしさすら感じさせるメンタルの強さが、自他ともに最大のストロングポイントだと公言してはばからない。黒田監督も苦笑しながらこう語ったことがある。 「上級生に対して関係なく、ピッチの上では呼び捨てだろうが何だろうがどんどん仲間を鼓舞し、遠慮なく指摘できるのが松木のいいところですよね」 声がかかればという前提のもとで、早めに海外にチャレンジしたいと将来の青写真を描く逸材はさらに攻撃力を高め、リーダーシップをも身にまといながら、2大会ぶり3度目の頂点を目指す。 (文責・藤江直人/スポーツライター)