シーズンの最後に待っていた「敗戦の記憶」。横浜FCユースの圧倒的ムードメーカー、DF家田唯白は1年後のファイナルへの帰還を誓う
[12.15 プレミアリーグファイナル 横浜FCユース 0-3 大津高 埼玉] 言いようのない感情が渦巻く中で、懸命に前を向く。この悔しさを必ず大きな糧にして、ここからのチームに生かしていかなくてはいけない。それがファイナルのピッチに立った自分が、1年間背負っていくべき大事な使命だ。 【写真】「えげつない爆美女」「初めて見た」「美人にも程がある」元日本代表GKの妻がピッチ登場 「僕たち2年生はあと1年ありますし、ここまで連れてきてくれた今年の3年生のためにも、みんなでこれからの1年間ももっと練習して、またここに戻ってきたいと思います」。 横浜FCユース(神奈川)の最終ラインから強烈なエネルギーを発する、元気系センターバック。DF家田唯白(2年=横浜FCジュニアユース出身)は一歩届かなかった頂上からの景色を今度こそ眺めるべく、新たなチャレンジへと歩みを進めていく。 「みんな緊張はしながらも『楽しみだな』という話はしていた中で、やっぱり横浜FCのサポーターの方の応援が凄くて、相手の応援も凄くて、気持ちは高ぶったんですけど、埼スタという舞台は楽しんでできたかなと思います」。 高校年代日本一を巡るプレミアリーグファイナル。最終節で堂々のEAST初優勝を飾った横浜FCユースは、WESTを圧倒的な成績で制した大津高と、埼玉スタジアム2002のピッチで向かい合う。スタンドに陣取る水色のサポーターたちを見て、家田の胸は高鳴っていた。 試合が始まると、お互いに負けたくない想いを携えていた中で、やや静かな展開に。家田も「自分は攻撃でもっと違いを見せたい選手なんですけど、ビルドアップのところは前半は相手に合わせてしまってロングボールが増えてしまって、あまり攻撃で違いは見せられなかったと思います」と話したように、チームもいつものようなアタックはなかなか繰り出せない。 だが、守備面では一定の手応えも掴んでいた。「ヘディングでは自分より大きな相手に対して勝つことはできていたので、そこは継続していきたいなと思っていました」。相手の強力アタッカーを相手にしても一歩も退かず。ディフェンスリーダーのDF秦樹(2年)が不在の中、センターバックコンビを組んだDF大川萊(2年)と連携を取りながら、果敢に前へ出て相手の攻撃の芽を摘んでいく。 前半終了間際にはスーパーミドルで失点を喫したものの、チームに過剰な焦りの色は見られない。「後半の初めは結構やりたいことができて、チャンスも増えたと思います」という家田の言葉通りに、12分にはDF佃颯太(2年)が右ポストを直撃する惜しいシュート。同点への期待が高まっていく。 それでも、大津は強かった。32分に家田の頭上を通過したクロスを、山下景司に叩き込まれると、45+4分にはまたしても山下にロングシュートを決められる。ファイナルスコアは0-3。「シュートも相手の本数の方が多かったですし、自分たちが受け身になってしまったところもあったので、自分たちが1年間積み上げてきたものがあまり出せなかったです」。家田は先輩たちが涙を流す傍らで、唇を噛み締めた。 今季は決して順調なシーズンを送ってきたわけではない。リーグ戦でも第4節まではベンチスタート。第5節の大宮アルディージャU18戦でスタメンに抜擢されると、チームもきっちり勝利を収め、以降も一時期は定位置を明け渡したものの、後半戦は完全にレギュラーに定着し、プレミアの舞台で経験値を積み重ねていく。 「前期の最初の方は試合に出られていなくて、正直悔しかったんですけど、チームを盛り上げたりしながら、チームのために貢献していれば出番は来るかなと思っていました」。本人も語っているように、この人の大きな武器は『チームを盛り上げる』ポジティブなエネルギーだ。 ある日の練習後のこと。ユースの練習に参加しているウクライナ人GKのヤリクをみんなで囲み、何やら盛り上がっている。その輪の中心にいるのはもちろん家田。片言の英語とジェスチャーでコミュニケーションを取りながら、周囲の笑いを誘っていく。そんな光景を見ていた和田拓三監督は「まあ、ああいうヤツです(笑)」と笑顔を浮かべる。 プレミアリーグEAST第20節。負ければリーグ優勝の可能性が潰える首位・鹿島アントラーズユースとの大一番。実に11試合ぶりにスタメンを外れた家田は、アップエリアからピッチの選手たちを大声で鼓舞し続ける。そのうえ、向けられたカメラに気付くとポーズを決める余裕まで。それを見た周囲にやはり笑顔が広がる。 勝利を飾り、優勝への可能性を繋いだ試合後。キャプテンのDF小漉康太(3年)は「前日の練習から(家田)唯白たちが盛り上げてくれて、全員で勝てたことも良かったです」ときっぱり言い切る。「ベンチスタートだった時でもアピールして試合に出たいなという想いはありましたし、それなのに試合に出た時に自分が静かになっていたら意味がないので、いつでもみんなの気持ちが落ちそうな時に声を掛けるようにはしています」。そう話す家田の存在は、いろいろな意味でチームに絶対欠かせない。 コンスタントにプレミアの強敵と肌を合わせてきたことで、自身の強みにも、弱みにも、目を向けることができたという。「去年はまったく絡めなかったプレミアに、今年はこうやって続けて出てみて、最初は『思ったよりできるな』という印象があったんですけど、いろいろな相手とやっていく中で、課題としてはもっと潰しに行くところと、ヘディングのところはしっかりやっていかないといけないなと思いました。でも、ロングフィードや攻撃のところは自分の武器が通用するので、そこはポジティブに捉えています」。 シーズンの最後に待っていた『敗戦の記憶』。来季は中心選手としての活躍が期待されるが、家田はしっかりと携え直した決意を口にする。「今年は試合に絡んでいた2年生の選手が多いので、来年は自分たちが主体となって、今年より良い結果を見せられるように、練習からもっとやっていきたいと思います。個人としてはもっと相手に怖がられる選手になりたいなと思いますし、先輩方がプレミアの舞台を残してくれて、そこで優勝できたのは嬉しかったですけど、やっぱりもう1個上があるので、そこを獲りたいと思います」。 横浜FCユースに大きなパワーを注ぎ込む、チームきってのムードメーカー。ファイナルのステージで悔しさを自身に刻み込んだ家田唯白の2025年が、どんなシーズンになっていくのか、今からとにかく楽しみだ。 (取材・文 土屋雅史)