<春にかがやく―2024センバツ>敦賀気比 返り咲きへ、小技習熟 嵐の船出「もう一度優勝を」 /福井
昨夏は福井大会準々決勝で敗れ、甲子園の春夏連続出場が5季で途絶えた敦賀気比(福井)。新チームは嵐の船出だった。「今大会限りで次の世代にバトンタッチしたい」――。福井商に七回コールド負けを喫した後、東哲平監督(43)が退任を選手に伝えたのだ。 【写真で見る歓喜の瞬間】歴代のセンバツ覇者たち 2015年センバツで北陸勢初の甲子園優勝を達成した指揮官の突然の表明に、「東監督あっての敦賀気比。不安は当然あった」と西口友翔主将(2年)は振り返る。ただ、始動した新チームの練習態度に動揺は見られなかった。「毎回出るのが敦賀気比」と西口主将が強調するように、選手たちにとって甲子園は「戻らなければならない場所」だ。引退する先輩たちの温かい励ましの声も、不安を和らげた。 一方の東監督。懸命に慰留する学校側と話し合いを重ねる中で、改めて学校側の全国制覇への熱量を確認すると、2週間後に退任を撤回して復帰した。「もう一度全国制覇を目指す」との言葉は、現チームの選手たちに深く刻まれている。 甲子園への返り咲きに向け、チームが重視したのは、犠打など「小技」の習熟だった。昨年のセンバツと夏の福井大会の敗戦に共通したのが、バントミスで流れをつかめなかったことだ。しかも今季は、前チームの主軸でプロ野球・DeNAの育成ドラフト1位で入団が決まった高見沢郁魅選手のような大型打者はいない。誰もがチームの方向性を理解していた。 「顔の前でバットに当てろ」「(バットの)高さは膝で調節しろ」――。川下竜世コーチ(30)は、犠打の成功率を高めるためにポイントを絞って指導し、連日の反復練習を課した。ほとんどの選手は中学時代まではチームの中軸で、「バントのやり方も分かっていなかった」(小久保稀世斗選手・2年)という選手もいたが、一夏で精度を高めた。元々小技をこなしていた嘉村幸太郎選手(同)も「何となく決めていたバントが技術的な根拠をもってできるようになった」と自信を深めた。 センバツ出場につながる北信越大会の準決勝は、日本航空石川と延長十回タイブレークの熱戦となった。この試合、「9番・右翼」で先発出場した嘉村選手は3度の犠打を全て成功させ、二回には追加点をお膳立て。勝利の瞬間、大会を通じて不振に苦しんだ4番の浜谷輝選手(同)が目に涙を浮かべると、重圧から解放されたかのように、ナインが一斉に涙を流した。 決勝は、後に明治神宮大会も制した星稜(石川)に0-1で惜敗した。嘉村選手は「1点以上の力の差を感じた」と言いつつも、「星稜にはバントミスなどの粗さがあった。自分たちの細かな野球を突き詰めれば、勝てる可能性は十分にある」と、目指す野球に確信を深めたという。 東監督は、今季のチームを「突出した選手はいないが、まとまりがあって面白い」と評する。己を知り、今すべきことを自覚してきたチームが、集団の力で聖地に挑む。【高橋隆輔】