7割が外国籍、グローバル化する令和の「夜間中学」 民族や宗教も多様、給食は禁忌食対応
禁忌食にも対応、夜間中学のグローバル化
急速に進むグローバル化の波に、夜間中学もさまざまな対応をしている。同校では日本語の習熟度でクラスを展開し、各教科の教員は英語やスマホの翻訳機能などを使って補助説明をしたり、プリントはひらがなのルビに加えて各言語を併記する場合もある。 また給食は、民族や宗教によっては禁忌食があるため、肉類は牛や豚をいっさい使わず、鶏肉のみを使用。ベジタリアンには肉類を外すなど特別な対応もしている。取材に訪れた日の給食は、鶏肉を使った夏野菜たっぷりのスパゲッティーミートソースだった。 同校の副校長・髙橋勝彦氏は「昨年は栄養士さんと調理師さんにも道徳の授業に加わってもらい、食事は残さずに食べる、作ってくれた人に感謝する日本のマナーを学習しました」と給食も学びの一環になっていると明かす。 一方で、国が違えば、文化も異なる。同校では過去に、陽気な国民性の男子生徒の言動が、男女の接触に厳しい国の女子生徒に不快感を与えてしまったトラブルもあった。 「日本のように指をさされるのを嫌がる文化の国もありますし、そうではない国もある。だから、夕礼(通常学級の朝礼に該当)や学活の場で『お互いに違う文化なのだから、やってはいけないこともある。仲良くするために、お互いの文化を尊重しよう。同じように日本でもやってはいけないマナーがあります』と常日頃から伝えています」(髙橋氏)
勉強したい生徒だけが集まっているのが夜間中学
しかし、30年前から揺るがない部分もある。「生徒層が変わっただけで、ある意味では何も変わっていません。生徒の目を見てもらえばわかりますよ」(奥秋氏)。 授業を見学させてもらうと、その意味がすぐにわかった。通常学級では、授業を聞かずに机に伏せている生徒は何人かいるものだが、夜間学級には一人もいない。授業中は質問が飛び交い、笑い声もたくさん上がる。習うのではなく、自ら学ぼうとする姿勢にあふれていた。 授業の合間に20代のネパール人生徒(3年生)に話を聞くと、「めっちゃ楽しいです。移動教室や修学旅行などのイベントもあるし、先生が授業中に面白いことを言ってくれるから、気持ちがリフレッシュして楽しく勉強できます。ネパールでは授業ばかりで、ミスをすると先生に強く叱られるので怖かった。今はレストランで働きながら通っていますが、ネパールの時より全然疲れない。卒業したら高校、大学に進学して、日本で就職したい」と学ぶ喜び、将来の夢を語ってくれた。 そんな姿に70代の日本人生徒(1年生)も目を細める。「みんながわいわいしているのが、すごく心地よいです。一生懸命学んでいて、ダイヤモンドの原石のよう。私もこの学校に来て、心の奥底に蓋をしていた『本当は勉強したかった』という思いが一気に開きました」。 奥秋氏は「みんな目がキラキラしているでしょう。勉強したい生徒だけが集まっているからです。これが夜間学級です」と胸を張ると同時に、「夜間学級は教育の原点だと思います。目の前の生徒の成長のために、何ができるか。できる限りの最高の教育と体験を与えてあげることが使命だと思っています。それは日本人だろうが外国人だろうが同じです。だからこそ、われわれ教員の力量が大きく問われている」と気を引き締める。 かつて夜間学級は法的根拠が不明確で「あってはならない学校だが、なくてはならない学校」と言われることもあった。一時期は全国31校まで減少したが、教育機会確保法の施行によって2019年以降は増加に転じ、2024年4月現在は31都道府県・指定都市に53校ある。 「今は間違いなく、あったほうがいい学校だと思います。国も不登校対策に本腰を入れ始めたので、これから学び直しの日本人もどんどん来るようになるでしょう。新たな波が来ているように感じます」(奥秋氏) 中野 龍(なかの・りょう) フリーランスライター・ジャーナリスト 1980年生まれ。東京都出身。毎日新聞学生記者、化学工業日報記者などを経て、2012年からフリーランス。新聞や週刊誌で著名人インタビューを担当するほか、社会、ビジネスなど多分野の記事を執筆。公立高校・中学校で1年2カ月間、社会科教諭(臨時的任用教員)・講師として勤務した経験を持つ (写真:中野氏撮影)
執筆:フリーランスライター・ジャーナリスト 中野龍・東洋経済education × ICT編集部