世界陸上、34年ぶりの日本開催 次代を担う若手選手ら飛躍なるか
陸上の世界選手権が34年ぶりに東京へ戻ってくる。約半年前のパリ・オリンピックを沸かせた世界の超人たちが集結する。日本の次代を担う若手選手にとって飛躍のチャンスとなる。 【決勝で力走する泉谷駿介】 ◇恐怖克服「決勝に残る」 長距離 山本有真(ゆま)(24)=積水化学 初出場した2024年夏のパリ五輪は世界の注目を浴びる高揚感を味わい、「東京」で戦う覚悟を決めた大会だった。 女子5000メートル予選、大観衆のフランス競技場で行われたレースで「大逃げ」に出た。序盤から一気に飛び出し、中盤過ぎまで先頭を独走した。 前年の世界選手権ブダペスト大会では「遅かったら何か言われる」と消極的になり、いいところなく予選の組20着で敗退した。失敗を糧にした決断だった。 パリのファンは大声援でその勇気をたたえた。「普段は自分の息づかいを聞きながらリズムを取って走るけど、それが聞こえない。『今、すごく貴重な経験をしている』と冷静に考えられていたんです。『この瞬間、この景色を絶対に覚えておこう』と思いながら走っていました」 終盤に息切れし、またも決勝進出はならなかったが、大舞台への恐怖心に打ち勝った。 学生時代から名の知られたランナーだ。地元の愛知・名城大の主力として全日本大学女子駅伝で4年連続優勝に貢献。23年、積水化学に入社すると、全日本実業団対抗女子駅伝(クイーンズ駅伝)で2年続けて2区区間賞を取った。ネット交流サービス(SNS)のフォロワー数は計13万人超と人気も兼ね備える。 女子長距離界のホープとなったが、予期せぬタイミングでペースを上げ下げする海外勢の走りにはまだ不慣れだ。「世界と戦うことが『非日常』の状態。海外のレースにも出てみたい」。積水化学の野口英盛監督にはそう相談している。 自国開催の世界選手権は、出場が目的ではない。「決勝に残るための練習をしないと」。今度は最後まで大声援を独り占めしたい。【岩壁峻】 ◇けがで無念、壁突破期す 110・400メートル障害 豊田兼(22)=慶大 195センチの長身で大きなストライドを誇り、男子400メートル障害と110メートル障害の2種目をこなす異色の「二刀流ハードラー」だ。父がフランス出身で、パリ五輪に400メートル障害で初出場を果たすと注目を集めた。 東京都出身で、都内有数の進学校の桐朋中・高から慶大に進学。大学4年となる2024年のパリ五輪出場を見据えた「4年計画」を立て、ウエートトレーニングなどを地道に重ねて力をつけた。 パリ五輪イヤーの歩みは順調そのもので、大きなレースの度に調子を上げた。6月末の日本選手権400メートル障害を日本歴代3位の47秒99で初優勝し、五輪代表を決めた。 「同じレースを再現すれば(五輪の決勝進出も)見えてくる」と五輪でのファイナリストへの手応えも感じた。 しかし、現地入り後に左脚のけがが再発した。予選ではスタート直後から他の選手に引き離され、終盤は左脚を引きずりながら6着でフィニッシュし、予選敗退した。その後の敗者復活戦を棄権し、初の五輪は不完全燃焼に終わった。 男子400メートル障害は、かつて日本の得意種目だった。世界選手権の1995年大会に山崎一彦さん(現日本陸連強化委員長)が7位入賞し、01年大会と05年大会で為末大さんが銅メダルを獲得した。 しかし、その後、世界選手権で決勝進出した選手は出ていない。日本記録(47秒89)も為末さんが01年に出した記録が24年間更新されないままだ。その壁を突破するため、「47秒8台を目指す勢いで、日本記録更新がついてくるようなイメージ」を持つ。 父の祖国で開催された五輪で果たせなかった決勝進出を出身地の東京で開かれる世界選手権で目指す。【磯貝映奈】 ◇3度目開催は初 陸上の世界選手権は、原則2年に1度、奇数年に開催される大会だ。国内では1991年の東京大会、2007年の大阪大会に続く実施で、3回開催する国は日本が初めてとなる。 東京・国立競技場をメイン会場に、9月13~21日の9日間の日程で、世界200以上の国・地域から約2000人の選手が参加する予定。男女各24種目と混合1種目の計49種目が行われる。 マラソンのコースは、東京の観光名所を回る42・195キロ。国立競技場を発着点に、レース中盤では銀座、東京駅、皇居など1周約13キロの周回コースを2周する。 91年の東京大会は男子100メートルでカール・ルイスさん(米国)が史上初の9秒8台となる9秒86の世界記録をマークし、3連覇を果たした。07年の大阪大会は男子400メートルリレーで日本が38秒03でアジア新記録を更新して5位入賞し、翌08年の北京五輪での初の表彰台につながった。【高橋広之】