『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎 真生版』考察 いまだ熱冷めやらぬ父たちの物語
真生版では何が変わったか?
大人向けに振り切ったといえば、2023年公開版は[PG-12]であった。今回の真生版は[R-15+]となり区分が変更となった。 映倫による指定理由をみると、2023年公開版は「簡潔な殺傷・出血の描写がみられるが、親又は保護者の助言・指導があれば、12歳未満の年少者も観覧できます。」とあり、真生版は「刺激の強い殺傷・流血の描写がみられ、標記区分に指定します。」とある。 リテイクカットの中には、絵コンテで当初想定されていた恐怖演出を復活させたカットも含まれているそうで、昨年公開されたものから血しぶきと恐ろしさが増したと言われている。 しかしながら、本作の監督を務めた古賀豪は「R15+区分ということでご心配なさる方もいらっしゃるかもしれませんが、お約束します、『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎 真生版』はレイティングにかかわる部分はもちろんなのですが、むしろ映像自体のブラッシュアップに力を入れています。“恐ろしさ”というより、“妖しい美しさ”が増している事でより深く物語に陶酔し、感動していただけることでしょう」と真生版の公開に自信を見せている。 正直、鑑賞後「真生版ではあのシーンがこう変わった」と事細かに指摘することは難しいと思う。だが古賀監督の言うように、物語に深く入り込むことができるように感じた。残酷描写を際立たせることで、凄惨な運命を、人間の悲哀を、そして美しさをより感じることができるだろう。 作中には「見えないものが見える」というセリフが何度も出てくる。真生版は、見えないものを感じるため、無意識に対してのブラッシュアップを重ねたアニメである。また戦時中の回想を印象に残すことによって、原作者・水木しげる氏への深いリスペクトを感じさせるとともに、人間の愚かさ、戦争反対を叫ぶ語り部としての覚悟を再び我々に問われているように思う。 話題となってからAmazonプライム・ビデオやNetflixなど動画配信やレンタルで観た方もいるだろう。見えない何かを体感するために、劇場での鑑賞をおすすめする。
文 / 小倉靖史