なぜ新谷仁美はマラソン日本記録に12秒差と迫れたのか。レース直前までケンカ、最悪の雰囲気だった3人の選択<RS of the Year 2023>
WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)、ラグビーワールドカップ、サッカー・FIFA女子ワールドカップ、世界陸上、バスケットボール・FIBAワールドカップ……数々の世界大会が開催され、多くのアスリートの活躍に心揺さぶられる1年となった2023年。一方で、小野伸二さん、石川佳純さん、岩渕真奈さんなど、長く第一線で競技を背負ってきたレジェンド選手たちが現役引退を決意したことも印象的な一年となった。そこで、結果や勝敗だけではないスポーツの本質的な価値や魅力を伝えてきた『REAL SPORTS』において、2023年特に反響の多かった記事を振り返っていきたい。今回は、2人のコーチとの深い絆で結ばれながら日本歴代2位の記録を出した新谷仁美選手のレースへの取り組みの裏側を追った記事だ。 (2023年2月1日公開) =================================
今年1月に行われたヒューストンマラソン、新谷仁美が日本歴代2位の記録で優勝を果たした。日本記録更新に照準を合わせて大会に臨んだが、目標に掲げた結果には12秒届かず。レース後は悔し涙を見せた。それでも革新的なトレーニングを行い、次こそは、との期待を抱かせる意義あるレースだったことは間違いない。献身的に新谷を支えた2人のコーチと、新谷自身の言葉から振り返る、確かな手応えと、明確な課題とは。 (文=守本和宏、写真提供=TWOLAPS)
優勝で流した悔し涙。挑戦を終え、発したその一言
女子マラソン、日本史上2位。1月15日のヒューストンマラソンで新谷仁美は、日本記録とわずか12秒差、2時間19分24秒でフィニッシュした。優勝して悔し涙を流す新谷。30代選手史上初、18年ぶり2時間19分台の快挙も、彼女には「日本記録更新」に届かなければ意味がない。 帰国後、レースの印象を「もう、なんとも思ってないです(笑)。特に目標を達成したわけでもないので」と答えたのも、素直な感想だろう。 ただ、一連のマラソン挑戦を終え、発したその一言にシビれた。 「証明できたことの一つは、自分に合う練習方法が絶対あるということ。例えば長く距離を踏んだら強くなれるのか、スピードの質を上げれば動きにつなげられるのか。この2つだけでなく、たくさん方法がある。自分に合った方法を自身で探る、選手も自分で選ぶことで、結果が出せると証明できたと思います」 誰の人生だって、そうだ。先人の学びや知識は参考になっても、選ぶのは自分自身。結果を出す方法は一つじゃなく、自分に合わなければ継続もできない。仕事も競技も、その根本は同じなのだ。そして、新谷にとってその方法を探すうえで、今回大きな役割を担ったのが、横田真人コーチ、ペースメーカー新田良太郎コーチだった。