手と鼻と耳で見る絵画、オランダ・ファンアッベ美術館で体験するダイバーシティの世界
地下1階から地上4階まで、20世紀前半からの現代アートが年代別に展示されている。タイトルの横に「緑の手」のマークがついていたら、それは「触れる作品」であることを示す。といっても、作品そのものを触れるのではなく、作品の近くに展示されているレリーフや模型を触るのだ。 触れる絵画には、パブロ・ピカソの「女性の胸像」やチャーリー・トーロップの「劇作家ジラ・デュリューの肖像」などがある。色や陰影などを反映し、立体的につくられたレリーフを指でなぞると、人物の表情や服のテクスチャーが感じられる。
大きな立体オブジェを小型のオブジェにして触れるものもある。天井まで届くマイケル・ラコウィッツの大きな作品「白人に夢はない」(冒頭のカバー写真参照)は、手をぐるりと回せるぐらいの大きさに縮小され、車いすの人でも触れる低い位置に展示されている。ピート・モンドリアンがデザインした巨大な舞台装置も、立体のオブジェでその世界観が再現されている。
一方、嗅覚で楽しめる作品もある。マルク・シャガールの絵画「アポリネールへのオマージュ」など7点が並ぶ部屋では、作品タイトルの横に香り付きの紙が入った箱が据えられている。長細いその紙には作品をイメージした香りがついており、説明が書かれている。 例えばコンスタント・ペルメケの作品「The Sower(種をまく人)」には、「干ばつが続いた後、舗道や畑から立ち上る特徴的な匂い。これは水、つまり肥沃さを示す」 同館のコレクション責任者であるスティーブン・テンタイエ氏によると、レリーフや香りのインスタレーションの製作には、視覚障碍者や関連組織の協力を得た。これらの展示について視覚障碍者たちは、「ついに絵画を鑑賞する可能性が生まれた」と、喜びの声を挙げたという。 もちろん、これらの作品は視覚障碍者のみならず、すべての人が触れたり嗅いだりできるものだ。来館者たちはそれぞれ、いろいろな方法で独自のアート鑑賞を楽しんでいる。