ホンダ、ヤマハの苦悩もコンテンツ化できるか? F1興行主がMotoGPを約6820億円で買収……〈多事走論〉from Nom
ロッシ、マルケスという絶対王者がいなくなったMotoGPクラスは、まさに群雄割拠の時代になり、毎レース誰が勝ってもおかしくないような展開に。これもいいように受け取れば、毎レース激しいバトルが繰り広げられる面白い展開なのですが、悪く言えばドングリの背比べでレースを支配する絶対の強者=ヒーロー不在の時代になってしまったのです。 観客の減少を食い止めるために、ドルナも土曜日に決勝レースの半分の周回のスプリントレースを実施するようにしましたが、それも回復の決定打にはならず、冒頭の買収劇が起こったのです。 さらに深刻な話ですが、レース関係者の話では、このMotoGPのみならず、スーパーバイク選手権(WSBK)含め(もちろん全日本選手権も)、世界中のロードレースでビジネスとして採算が取れているものはないはずとのこと。これは、転倒すれば大ケガをするリスクのあるバイクのレースを敬遠する人(特に女性)が増えているからで、非常に根源的な問題だといいます。 さらに言えば、いま世界中で売れているバイクを見ても、レースベースマシンとなるようなスーパースポーツは主流ではなくなり、アドベンチャーバイクやネオクラシックが人気を集めています。 レースが隆盛だった頃は、売れているバイクもスーパースポーツで、自分が乗っているバイク(あるいは近い存在)がサーキットを疾走する姿に熱狂していたものです。 そういういくつかの話を重ね合わせると、MotoGPの売却話にも納得がいくのではないでしょうか。
F1を超人気コンテンツにしたリバティメディアの手腕に期待大!
ただ、これまでMotoGP参戦を完全否定していたBMWが、MotoGPのレギュレーション(排気量が1000ccから850ccになり、100%持続可能燃料を使用)が変更される2027年からの参戦を検討しているというポジティブなニュースもあるにはありますが、現時点では人気がそんな下降傾向のMotoGPを、なぜリバティメディアは大枚をはたいて買収したのかと疑問に思う方もいらっしゃるでしょう。 リバティメディアがF1を手中に収めたのは2016年。以来、F1の人気は右肩上がりで伸びていて、同じく売上も右肩上がり。観客動員数もうなぎのぼりで、一例を挙げると昨年のオーストリアGPは3日間で36万人を動員したそうです。また、2013年に観客数20万人を切ってから右肩下がりだった鈴鹿の日本GPも2022年に再び20万人に復活しています。 この成功のきっかけになったのは、Netflixで2019年から配信されているF1のドキュメンタリーシリーズの「Formula 1:栄光のグランプリ」(原題:Formula 1:Drive to Survive)と言われています。レース自体やタイトル争いだけではなく、各ドライバーの内面に迫ったり、ドライバーの後ろ側にいるチームやスタッフ、家族にもスポットを当て、F1の世界で起きているさまざまなことを物語風に編集している点がモータースポーツファン以外にも好評を呼び、現在はシーズン6まで放映中です。 筆者もこの原稿を書くために観てみましたが、確かにこれまでのレース映画にはなかったような作りに興味を惹かれました。 この栄光のグランプリがアメリカで大ヒットした(各シーズンで5000万時間視聴されているそうです)のが、現在のF1人気の原動力になっていて、同時にそれまでは参入がなかったアマゾンやグーグル、オラクルといったアメリカのテック系企業がスポンサーになったのだそうです。 これにより、アメリカで空前のF1ブームが起き、それが世界に広まったということです。アメリカと言えば、先日、ホンダが2026年からAston Martin Aramco Cognizant Formula One Team(アストンマーティン・アラムコ・コブニザント・フォーミュラ・ワン・チーム)にパワーユニットを供給しF1に参戦することを発表しましたが、これもアメリカでのF1人気が大きく影響しているはず。 ──F1はお祭り的な盛り上げ方がうまいように見える。ロッシが離れてからのMotoGPはどうだろうか?