『ガールズ&パンツァー』で話題となったクリスティー式はアメリカ軍の英雄・パットン将軍も大絶賛!! しかし制式採用の前に世界恐慌が立ち塞がる!
クリスティー戦車の理解者であったパットンは同車の採用を強く支持
満たされない戦間期の日々にあってもパットンの機甲戦力整備にかける情熱と戦車の性能を見抜く目には些かの曇りもなかった。彼はM1919の登場からクリスティーが作る戦車の資質の高さを理解しており、その約10年後に登場するM1928については、貧弱な武装に不満を抱いてはいたものの、その機動性の高さから「メキシコ国境のパトロール用に最適」として採用を支持していた。そんなM1928が快速性はそのままに、火力と防御力を改善した本格的な戦車に生まれ変わったと聞き、どうにも辛抱できなくなって、陸軍大学の卒業を間近に控えた多忙な時期にも関わらず、ワシントンD.C.の陸軍大学からクルマを飛ばしてT1のデモンストレーション会場へと馳せ参じたというわけだ。 来賓席の最前列に陣取り、フィールドを恐るべきスピードで縦横無尽に走り回るT1の姿を見たパットンは、これこそ自分が求めていた走・攻・守のバランスに優れた戦車であることを確信した。当初は見学だけで済ますつもりであったが、疾走する戦車の姿を見ていると自らその性能を試してみたいとの思いがフツフツと沸き立ち、とうとう自分の気持ちを抑えられなくなった彼は、デモ走行を終えてT1が戻って来ると、飛び入りで試乗しようと戦車に近づいて一気に車体を駆け上ったのだ。もちろん、これは試験部隊のスケジュールにはない行動である。
パットンらしい強引なやり方でT1を飛び入り試乗
「軍曹、そこを退きたまえ。今度はワシがテストする番だ」 有無を言わさぬパットンの行動に周囲が唖然として見つめる中、戦車の上に仁王立ちした彼は、その鋭い眼光で戦車長を睨みつけ、尊大な態度で試乗を求めた。この不当な要求に困惑した表情を浮かべるのはT1の戦車長である。パットンの行動はまったくの予定外のことであり、当然のことながら事前にそのような話は聞かされていない。 「少佐殿、誠に失礼ながら小官はそのような話を聞いておりませんが……」 鬼のようなパットンにひと睨みされればベテランの下士官でも身が縮こまる。蛇に睨まれたカエルのように怯えの色を見せた戦車長であったが、はたと自分の職責を思い出し、か細い声を絞り出してパットンの要求を不当としてやんわりと拒否した。するとパットンの表情は不機嫌そうなものに変わる。 「いいかね、軍曹。知らないなら教えてやるが、ワシは合衆国陸軍から戦車に関する戦略・戦術・運用研究を任せられているジョージ・S・パットン少佐だ。そのワシがT1の試乗をしなくてどうするのかね? ワシの試乗がスケジュールに入っていないと言うのなら、それは貴様が予定表を見落としただけだろう。そのカボチャみたいな頭をワシのコルトで吹き飛ばされたくないのならとっとと席を譲らんかっ!」 そう発するやいなや、パットンはキューポラの中に半身を潜める戦車長の襟首を掴んで車外へと放り出した。次の瞬間、ベチャっという鈍い音と共に演習場の泥の中に沈んだ彼は、汚れた顔を起こして救いを求めるように上官のほうに眼差しを向ける。だが、パットンの人となりを噂で耳にしていた上官は、何かを諦めたように肩をすくめて静かに首を横に振るのみだった。 その様子を車上から確認したパットンはニヤリと笑い「やはりワシの試乗は予定に入っていたようだな。オイ、誰かヘルメットとゴーグルを寄越せ! 暫しこの戦車を借りるぞ!」と満足そうに言葉を残してから砲塔の中に潜る。そして、今度は操縦手に向かって「いいか、発進したら演習場を全速力で突っ走れ。全速力でだぞ! 貴様にタマがついているのならワシを振り落とさんばかりのスピードで走ってみせろ!」と檄を飛ばした。
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