引退も覚悟した西武・岡田雅利が左膝の大手術から実戦復帰「『おかえり』は、まだ言わないでください」
絵馬に込められた想い
『治る!! 治る!!! 治す!!!! 復活!! やるしかない』 2024シーズン開幕を前に、岡田雅利はそう絵馬にしたためた。そこには、どれほどの想いが込められているのか。決して軽々しく想像できるものでないことは、「!」の数を見ただけでも重々伝わってきた。 【選手データ】岡田雅利 プロフィール・通算成績・試合速報 「ほんまに『治ってほしい』っていう思いと、『治ってくれ』っていう願いだけじゃ無理やから、自分が努力しないとという決意かな。最終的には“完全に治す”というのが僕の目標なので、そのためにも、まずは試合に出ることを目指していこうという気持ちで書きました」
2023年3月14日。岡田は『大腿骨・脛骨骨切り術』という大手術を受けた。それは、プロキャリアで3度目となる左膝へのメスだった。 「手術の日はもう痛すぎて寝れんくて、死にそうでしたわ。言葉では表現できない。ずっと正座をしてなくちゃいけなくて、それをちょっとでも動かしたら、「(激痛で)ゔぁーっ」ってなる。その後、1、2カ月入院してる間も、足を着いたらダメで、松葉杖を使いながらけんけんやったし。ちょっとでも着いたら『ビクン』ってなるから、『これ、治ってないんちゃうか?』って思ったりもして。もう絶対にやりたくないなと思います」 退院後も、日常生活、もっと言えば、激痛で歩行すらままならならず、「正直,引退も考えた」という。それでも、不屈の精神で治療、リハビリを乗り越え、2024年4月6日、千曲川硬式野球クラブとの三軍戦でついに実戦復帰を遂げた。
祈りと、「ただいま」のあいさつ
試合30分前、この日先発の山田陽翔のウォーミングアップ、キャッチボールの様子を眺めながら、岡田は「まだちょっと怖いんですよねー」と、やや緊張気味な笑顔を見せた。ただでさえ、約1年半ぶりとなる実戦だ。さらに、大ケガをしてから初めての試合だけに、多少の不安と恐怖心は当然と言えば当然だろう。九番・キャッチャーでスタメン。出場は「打順が回ってくるまで」。つまり、キャッチャーのみの出場と決まっていた。 1回表。守備に就く西武ライオンズの選手の守備位置と名前がコールされる中、岡田は定位置に腰を落とすと、そっと、ホームベースに右手掌を添えた。 「もう頼むからケガさせんとってくれ。お願いします」 「ようやく帰ってこれたな」 祈りと、「ただいま」のあいさつが込められたこの姿にこそ、岡田にとってこの日、この瞬間がどれほど大きく、大切なものであるかが表れていた。 予定どおり、3イニングでマスクをかぶると、その裏の攻撃時に打席がまわり、試合を退いた。 無事に出場を終えると、岡田はトレードマークの満面の笑顔であふれる想いを口にした。 「もうちょっと長く出たかったなー。でも、1年半ぐらいぶりにしては、良い雰囲気で入れたし、ほんまに純粋に『野球って楽しいな』って思えて、なんか少年に戻った感じがしました(笑)」 「ようやく(状態が)上がってきて、そこでもう1個、『プロとして、レベルがどうなんかな?』と思っていたのですが、勝手に体が動いちゃうというか、守った瞬間にグッときたというか。『うわ、何これ』っていう、プロに入って初めての感覚がありましたね」 「三軍戦ですけど、ファンの人が入ってくれて、ものすごい拍手をくれたり、選手も全員後輩という中で、情けないプレーもできないし、カッコ悪いところは見せられないなと思ったら、気持ち的にやっぱりガッと入りました。正直、打席にも立ちたかったから物足りない部分はありましたけど、『すっごいよかったな』『あ、(試合でプレー)できたんだ』って、自分自身で感動しています。数カ月前まで、歩くことすら痛かったので。そう考えたら、復帰の一歩という意味では、ものすごく大きな1日だなと思いますね」