為替とインバウンド需要の関係から、今後の訪日外国人観光客数を推測する
急速に増加してきたインバウンド需要の背景は?
話を元に戻して、近年、著しい増加を遂げてきたインバウンド需要の背景にどういった事情があったのか確認していきます。訪日外客数が増加し始めたのは13年です。
1. 12年秋以降の円安進行により海外旅行先としての日本に“お得感”が生まれたこと 2. アジア(中国含む)諸国を中心にビザ発給要件の緩和が段階的に進められてきたこと 3. 東日本大震災の風評被害が和らいだこと この3点が大きいと考えられます。そのほかにも、 4.日本の観光資源が素晴らしいとの口コミが広がったこと 5.東京五輪開催決定による広告宣伝効果など が背景にあったでしょう。ただ、直接的な要因としては上述の3つ(特に1と2)が大きいと判断されます。
為替と訪日外客数には一定の連動性が確認できる
この見方が正しいとすれば、円安の追い風が止むことの影響はある程度、覚悟しておく必要があるでしょう。実際、為替と訪日外客数の推移を確認すると、そこには一定の連動性が確認できます。しかも、そこには為替が円高(円安)に振れてから約半年後に訪日外客数が減少(増加)するという時間的な先行性も認められていますので、因果関係が存在する可能性が高いと言えます。為替変動が旅行計画に影響を与えているのでしょう。また、訪日外客数が減少すると、それとほぼ同じ軌道を描いて外国人消費(国際収支統計における旅行収支の受取額)も減少します。散布図では、その関係が比較的はっきりと確認されていますので注意が必要です(右上に行くと円安・外国人消費増加)。
ただ、インバウンド需要が急激に縮小する可能性は低いと判断されます。為替の円高が足かせになったとしても、以下の理由でそう考えられます。 1. そもそも前年比で50%近い増加率が異常で持続不可能であったこと(※伸び率が減速するだけで増加そのものは続く可能性はある) 2. ビザ発給要件の緩和(現在は中国・インド・ロシア向けを検討中)など制度面の施策が残されていること 少なくとも、インバウンド需要が12年以前の水準に逆戻りする可能性は低そうです。足もとの円高は、インバウンド需要の恩恵を享受してきた業種には打撃となりますが、日本経済全体としてみれば、影響は限定的と考えられます。ただし、これまでインバウンド需要による活況は、テレビをはじめマスコミ等で大きく報じられてきた経緯があるので、その裏返しで“インバウンド需要急減速!!”といった具合にマスコミで大きく取り上げられる可能性は否定できません。その場合、日本経済に与えるダメージが誇張され、企業や消費者のマインドが悪化してしまう可能性に注意が必要です。 (第一生命経済研究所・主任エコノミスト 藤代宏一) ※本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。