山崎賢人・主演「陰陽師0」映画オリジナルストーリーだが、まごうかたなき「原作小説の前日譚」! 映画を観ると原作がさらに面白く
■マニアも初心者も驚かせる平安の時代描写に感服
と、ふたりの話ばかりになってしまったけれど、他にもこの映画は見どころ満載だった。というか、のっけからヤラれた。平安時代中期(舞台設定は948年)というのがどんな時代だったか、人々は怪異をどう捉えていたかに始まり、陰陽師とは、陰陽寮とは何かというのを丁寧に説明してくれる。原作や平安時代に馴染みがなくても、映画の最初の数分で設定がしっかりわかるようになっている。 陰陽寮には学生の指導にあたる博士たちと、組織のトップである陰陽頭がいる。それがもう、小林薫、北村一輝、國村隼、嶋田久作という錚々たるメンツで、最年長の学生が安藤政信で、揃って歩いてるところなんていったいどこのアウトレイジかと。彼らの授業を見ているだけで、陰陽師がどんな仕事をしているのか、当時の身分制度がどうなっていたかや、この物語で特に大事な「呪(しゅ)」とは何かというテーマまですんなり理解できてしまう。さらっとやってるけど、実に目配りの利いた構成ですよこれは。 特に驚いたのは北村一輝さんの平安言葉で始まったこと。歌のようでありお経のようでもあり、何言ってるかさっぱりわからない。そして「当時の言葉ではわかりにくいので、ここからは現代語でいきます」というナレーションが入った瞬間、北村さんが普通の(? )言葉で話し出すのである。面白い演出だなあ! と同時に、千年も経つと言葉はこんなにかわってしまうのかとびっくりしたわ。 平安時代といえば十二単という思い込みを覆す薄着(十二単が定着するのは平安後期から)や、実際に和琴の名手として名高かった徽子女王を雅楽家の博雅と組み合わせたことなど細やかな時代考証も見どころ。それが華麗にして荘厳なVFXとぴったりマッチしていて、歴史ものとしても見応え抜群。もちろん「おまえが黒幕だったのかーーー!」というサプライズも用意され、山崎賢人の麗しくも鮮やかなアクションもあり、いやあ、これはもう脱帽だわ。 映画はオリジナルストーリーで、主人公の年齢も違う。なのにちゃんと夢枕獏の『陰陽師』の世界になっている。ちょっとすごくない? 原作小説はもちろん、前川奈緒によるノベライズも映画の物語をそのまま見事な小説に仕上げているので、あわせてお読みいただきたい。 最後に、個人的にツボった場面をふたつ。村上虹郎さん演じる得業生の死体を晴明が調べる場面、足の裏をあれだけ触られてよく我慢したな村上さん! そして菅原道真公の使い勝手が良すぎる。いろんなところに菅公のエピソードが入ってくるので、平安好きはそこもチェックだ! 大矢博子 書評家。著書に『クリスティを読む! ミステリの女王の名作入門講座』(東京創元社)、『歴史・時代小説 縦横無尽の読みくらべガイド』(文春文庫)、『読み出したらとまらない! 女子ミステリーマストリード100』(日経文芸文庫)など。名古屋を拠点にラジオでのブックナビゲーターや読書会主催などの活動もしている。 Book Bang編集部 新潮社
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