韓ドラのファン、44歳から韓国語を学び始めて字幕監修者に、花岡理恵さん。
勉強開始から3年後に弁論大会で入賞
家の近くの韓国語教室に通い、ハングルを読むことから始めた。「自分でも、続くとは思っていなかった」そうだが、学ぶうちに、どんどん楽しくなっていった。韓国語について学べるユーチューブの動画やブログなども活用しながら勉強を続けた。 韓国語力を引き上げるきっかけとなったのは、勉強を始めて3年後、教室の先生の勧めで韓国語の弁論大会に出場したことだ。当時はまだ文法の知識も十分ではなく、語彙も少なかったが、辞書を引きながら原稿を作り、4分間のスピーチに挑戦した。 「先生が本当に厳しくて、泣きながらお風呂で何度も練習しました」と言うが、この弁論大会で3位に入賞した。 次の転機は15年、映像字幕の事業を展開する会社の公開講座に何気なく参加したことだった。そこではじめて映像に字幕をつける経験をした。 「字幕は1秒につき4文字などの決まりがあり、自分で秒数をカウントしながら字幕翻訳をつけていきました。これがすごく面白かったんです。今さらながら、こういう仕事があるんだなと知り、学んできた韓国語を仕事に生かすことを考えるきっかけになりました」(花岡さん) しかし、今のスキルではまだ仕事にはできない。そう悟った花岡さんはさらに韓国語学習に力を入れ始める。さらにレベルの高い教育を受けるため、それまで通った地元埼玉のスクールを辞め、東京のスクールに足を運んだ。「自分はまだ中級クラス」と思っていたが、講師に勧められて最上級クラスを見学する。授業はすべて韓国語で、政治や経済、歴史、文化など内容もかなり高度だった。 講師に勧められた最上級クラスを「私には無理です」と一度は辞退した。それでも「予習をすれば大丈夫ですよ」と押し切られ、最上級クラスに入ることになった。 「そこからは過酷な日々が待ち受けていました。予習をしても新幹線が通り過ぎるような速さで授業が進んでいくんです。それでも泣きながら予習をしました」(花岡さん) 心が折れなかったのは、クラスメートに支えられたからだ。「励ましてくれる先輩たちが本当に人間的に素晴らしい人ばかりで、この人たちと一緒に勉強したいと思えたんです」と耐えた。 花岡さんは必死に食らいついているうちに、自然と授業の内容が理解できるようになっていった。こうしてさらに語学力はアップした。 ●映像に1から字幕をつけていく 最上級クラスに入って約1年がたった17年、字幕制作会社が開催する全12回の映像翻訳講座を受講。修了試験では受講者の中で1位の成績を獲得した。韓国語を仕事にする自信を身に付けた花岡さんは韓流コンテンツ配給会社大手コンテンツセブンの求人に応募し、採用が決まった。 「当時私は51歳で、それまでほとんど社会人経験もありませんでした。絶対に無理だろうと思っていたので、採用が決まった時はとても驚きました。今振り返ってみれば、韓国に留学したり暮らしたりした経験のない私が高倍率の中で採用された理由として、『日本語力』があったのではないかと感じています。字幕を読む人は日本語話者だからです。専業主婦でしたが、趣味や勉強の中で様々なタイプの文章を読んだり書いたりする機会が多くあったことが結果的に翻訳にも生かされたのだと思っています」(花岡さん) 字幕監修者とは、具体的にどんな仕事をするのか。花岡さんの場合、まず、監修の依頼が来ると依頼主から映像と台本が送られてくる。それを監修者が字幕翻訳者に送付し翻訳に必要な環境を整え、翻訳者と細かな打ち合わせをする。翻訳が上がってくると、映像と合っているか、誤字や誤訳がないかなど、細かい字幕ルールに沿ってチェックをする。 「このキャラクターではこういう言い方はしないのでは?」のような指摘もして、代案を出しつつ字幕を完成させていく。字幕は書籍や雑誌と違い、基本的にどんどん流れていくものだ。見る人にとって違和感なく、物語を理解してもらう必要がある。翻訳者とやりとりをしながら修正が終わったものを映像配給会社などクライアントに納品する。 スケジュール管理も監修者の仕事だ。「字幕が全くついていない状態から最終字幕の段階まで関われるのは楽しいですね。韓国ドラマは長いので、その中で表記揺れがないように字幕を作っていくのも大変です。最近担当したドラマは全100話を超えていました。他の作品も抱えながらだったので、週に4話ずつ血を吐く思いで監修しました」と字幕監修者の苦労を語る。