サプライズ采配の初陣はスコアレスドロー。新生“中後アントラーズ”で見られた変化と未来は? 中田FDに託された再重要タスク
確固たるスタイルの構築を
そのうえで気になるのは、新体制が今季限りという点だ。福岡戦の後、中田浩二FDは「3人(中後監督、羽田・本山雅志の両コーチ)の体制は今年限り。ちゃんとシーズンを戦うとなると、経験のある監督、コーチが必要になってくる。まず3人には今季をしっかり戦ってもらって、その先の来季は新しい監督を迎えてしっかりとやっていきたいと思っています」と説明。中後監督だけは来季コーチに就任するというが、それ以外のスタッフは基本的に入れ替わることを明言したのだ。 となると、今やっているサッカーが来季に引き継がれるかどうかは全くの未知数ということになる。鈴木の左MFや師岡のトップ、三竿の右SBといったトライも“期間限定”になってしまう可能性が少なくないのだ。 もちろん選手はプレーの幅を広げた方がいいし、この経験が必ずどこかでプラスになるはずだが、来季の新指揮官やスタッフがかけ離れた要求をしてくることも考えられる。となれば、この数か月間の積み重ねは意味のないものになってしまう。それだけは回避しなければならないのだ。 この先、鹿島はどういうサッカーを目ざしていくのか。選手たちに何を求めていくのか。それを明確にし、示していくことが、中田FDに託された再重要タスクと言ってもいい。 本人もそれを自覚している様子だった。 「僕も10年近く、チームに関わっていろいろ見てますけど、クラブとしてどう戦っていくか、どういうスタイルでやるのかというのがないなと感じている。それは中長期的にやっていかないといけない。それが言語化できれば、見合った監督や選手を補強すればいい。 『アントラーズはこう戦う』『こういうサッカーをやっていく』というのがあれば、一貫したサッカーができる。まずはそれを作ることが大事」と中田FDは意欲を示した。 強化の仕事に携わって1年足らず。中田FD1人で全てをこなせるわけではない。鈴木満アドバイザーや石原正康強化担当、現場スタッフやOBの力を借りながら、迅速に方向性を打ち出すべき。新指揮官の招聘はそれを踏まえて進めるべきである。 次期監督就任が噂されている川崎フロンターレの鬼木達監督が仮に快諾したとしても、やはり方向性があって初めて具体的なチーム作りに着手できる。現体制が取り組んでいることを無駄にしないためにも、鹿島はビジョンや指針の策定を最優先に着手すべき。そこは中田FDに強く求めたいところだ。 いずれにしても、今の鹿島はまだJ1優勝もACLE圏内の2位以内も、その可能性が完全に消えたわけではない。それを手にするべく、クラブが一丸となって突き進むことが肝要だ。 11月1日の次戦・川崎戦では攻撃面の改善が見られ、点の取れるチームに変貌を遂げていることを期待したい。 取材・文●元川悦子(フリーライター)