警察官が見当たり捜査で注目する「顔のパーツ」年をとっても変わらないのは?
「生き方や感情は顔つきに現れる」という楠木新さん。著述家として多くの人を取材し、さまざまな「顔」に接してきた経験から、いつしか「顔の研究」がライフワークになったと言います。『豊かな人生を送る「いい顔」の作り方』第7回は、同一人を確認する“身分証明”としての「顔」の役割について考察します。 ● 顔は“同一人”を証明する材料 気がつけば、顔認証技術はずいぶん身近なものになりました。 つい先日も、街角のインタビューで、おばあちゃんが「化粧を落としたら顔認証が効かなくなったの」と笑いながら話していました。シニア世代にも顔認証が浸透し始めています。 まもなくすれば、鉄道の改札口やコンビニのレジで、手ぶらで移動して買い物ができる時代がやって来るのでしょう。顔とはそれだけ“同一人”を証明する材料として高い精度を備えています。 同一人の確認という作業は、顔認証のほかにもIDカードやパスワードの入力、住所や生年月日、印鑑や手書きの署名などもあります。私は30年前に法人営業の仕事で外国の銀行を担当したときに、小切手の払い出しがサインで行われていたことに驚きました。マネができるのではないかと考えたのです。 これらは取引などによって事前に提出した資料との照合という面が強い。そういう特別な関係がない時には、やはり顔が同一人確認のポイントになるでしょう。 ミステリー作家である横溝正史の『悪魔の手毬唄』や『八つ墓村』(共に角川文庫)では、囲炉裏で顔に大やけどを負った人や顔マスクを被った人が、同一人かどうかがポイントになっています。解剖学者でもある養老孟司は、指紋の個人識別に気づく前には、頭の骨の形を計測して犯罪者の記録としていたと書いています。顔を含む頭部は変わらないからでしょう。 今回は、最近のマスコミ報道を中心に、同一人確認の際の顔の役割について検討します。
● 年をとっても、目元や耳の形は変わらない 顔による同一人確認では、指名手配犯などの顔写真を記憶し、繁華街やターミナル駅などの雑踏の中から被疑者を見つけ出す「見当たり捜査」という手法があります。 2024年12月20日の警察庁の発表によると、指名手配容疑者の捜査強化月間の11月と準備期間の10月に全国の警察が273人を摘発しました。そのうち立ち回り先の捜査が最多の168人。見当たり捜査が28人、職務質問が24人。見当たり捜査に一定の効果があることが分かります。 また、24年11月26日には「大阪府警『見当たり捜査』の捜査員 容疑者などの写真紛失」という新聞記事がありました。その捜査員の紛失したカバンの中には、裏に容疑者の名前や生年月日などが記載されている175人分の写真が入っていたそうです。意外と多くの容疑者を対象としているようです。 面白いのは、NHKの事件記者が、埼玉県警で何度も表彰を受けている見当たり捜査員の中村氏(仮名)を取材したケースです。 彼の発言を要約すると「顔写真をルーペで1枚1枚のぞき込む、細かく観察して目元やほくろなどの特徴を頭にたたき込む。年をとっても目元は変わらない。目が似ていると思ったら次に耳を見る。耳の形も変わらない。横顔や全身の写真と身長の情報も重ね合わせてイメージを膨らませる」となります。 映画監督の市川崑は「(映画で)人間の顔を写しただけで、その人物の感情や心理や、ある時は環境まで描く。(中略)その顔のうちでも眼が大切な位置を占めている」と書いています。やはり目元が同一人を確認するポイントのようです。 24年12月1日の共同通信の記事では、22年8月15日の終戦の日に、自民党の生稲晃子参院議員(現外務政務官)が靖国神社を参拝したとの誤った記事を配信したことを報じています。 この誤報が影響し、生稲氏が政府代表として参列した24年11月24日の世界文化遺産「佐渡島(さど)の金山」の労働者追悼式に、韓国政府関係者が参加を見送り。共同通信は、生稲氏をはじめ新潟県や日韓の関係者、読者におわびをするとともに経緯を検証しました。 検証では、生稲氏と他の女性議員とを見間違えたことと、裏付けの確認を怠ったことが原因だと結論付けました。このように目視による顔の同一人確認は、見間違いも生じうる。コロナの時期であれば、マスクによって顔が見える範囲も小さいので、よりリスクがあったかもしれません。