コーチから“チクリ”「お前、来れたか?」 結婚で奮起…反省が生んだ快挙
天谷宗一郎氏は2012年に復調、8月25日の阪神戦でランニングHR
走力も大きな武器だった元広島外野手の天谷宗一郎氏(野球評論家)は、プロ11年目の2012年8月25日の阪神戦(マツダ)でチーム20年ぶりのランニングホームランを記録した。左翼越えの打球が、フェンス近くまで転々とする間に快足をフル稼働させて、一気にホームを陥れたが、これは以前の反省を生かしたプレーでもあったという。緒方孝市三塁コーチとの“約束”が生み出したものだった。 【動画】指揮官は爆笑…広島の逸材野手が放ったランニングHR 天谷氏にとって2012年は期するものがあったシーズンだ。2011年は100試合に出場して167打数35安打の打率.210、1本塁打、12打点、8盗塁。不振による2軍落ちも経験し、代打や代走での出場も増えた。「もう全然駄目な年でした。振り返りたくないし、振り返りたくても全然記憶にない」というほどの絶不調。そんな中でオフに結婚。2012年はもう一度、奮い立って、巻き返しを誓って臨んでいた。 開幕こそ2軍スタートだったが、5月2日に1軍昇格。「6番・右翼」で出た5月6日のヤクルト戦(神宮)では、5打数3安打と活躍した。5月23日のソフトバンク戦(ヤフードーム)では新垣渚投手からシーズン1号を放ち、6月2日から6月27日まで16試合連続安打。その間に打順も上がり、6月13日のロッテ戦(QVC)からは1番で起用されるようになった。 7月にも11試合連続安打をマーク。7月18日の前半戦終了時点で打率.316だった。7月8日のヤクルト戦(マツダ)と7月26日のヤクルト戦(神宮)では1試合4安打。「2度ともヤクルトの先発は村中(恭兵)ですよね。彼ともすごい相性がよかったんでね」。
肝に銘じた緒方孝市コーチの言葉「勝手に決めつけるんじゃないぞ」
8月以降、調子を落として2012年は108試合、359打数95安打の打率.265、6本塁打、25打点、12盗塁に終わったが、すべて前年を上回った。そんな年に足で魅せたのが、シーズン5号となるランニングホームランだ。6-3の7回2死二塁で天谷氏の打球は前進守備の左翼・金本知憲外野手の上を越えていった。打球はフェンス近くまで転がり、その間に一気に三塁も回って、生還した。 「金本さんは肩がよくない時期で前に来ていたと思う。そこをビューンと、フェンスのところまで転々とする嫌らしい打球で、そのまま駆け抜けた感じでした」と天谷氏は説明したが、これには“過去のプレー”も関係していた。「以前の試合で三塁打を打った時、僕が三塁打と決めつけた走塁をしたんです。それで三塁コーチの緒方さんに『もし俺がランニングホームランだと思って手を回したらお前、来れたか。勝手に決めつけるんじゃないぞ』って言われていたんです」。 それ以来、緒方コーチの言葉を天谷氏は肝に銘じていた。「だから、あの時もセカンドベースを回るあたりでそれを思い出して、緒方さんを見たら、腕をグルグル回しているんで、ヨッシャーって感じで行ったんです」と明かした。スキを与えない、スキを逃さないのはカープ野球の伝統だ。緒方コーチによって天谷氏は改めて、それを学んだ。チーム20年ぶりのランニングホームランはそうして生まれたわけだ。 しかし、翌年(2013年)の天谷氏は再び、絶不調にはまり込んだ。34試合の出場に留まり、53打数11安打の打率.208、0本塁打、1打点、3盗塁と結果を残せなかった。「状態を戻そうとして2012年のものを追い求めすぎたのはあった。そこばかりを見過ぎて2013年にフィットできなかった……」。チームは初めてクライマックスシリーズに進出したが、天谷氏の出番は代打が中心。ヒットは打ったもののスタメンはなかった。試練がまたやってきた。
山口真司 / Shinji Yamaguchi