いよいよ最終週突入! 朝ドラ「虎に翼」異例ヒットとなった“2つの理由”ーー新鮮でありながら「NHKらしい」見事なドラマだった
そこに関してのキーマンがいる。NHKの解説委員であり、著作も多数あるジャーナリスト・清永聡が取材スタッフとして参加しているのだ。彼の著作『気骨の判決:東條英機と闘った裁判官』はドラマ化もされ(原作表記)、『戦犯を救え:BC級「横浜裁判」秘録』も今夏、ETV特集で映像化された(こちらは取材表記)。 『虎に翼』の企画の立ち上がりは、清永の著書『家庭裁判所物語』を読んだ、尾崎裕和チーフプロデューサーが、その中に登場する三淵嘉子が朝ドラの題材になるのではと思ったところからはじまったそうだ。
清永が3年かけて執筆した『家庭裁判所物語』のための膨大な取材データがあったがために、司法に関する部分が引き締まった。裁判官による判決文は本物を用い、その力強さは並大抵の創作にはかなわないものがある。そして、清永は事前にモデルになった方々への挨拶等、リスク管理を徹底しているため、ツッコミようがない。 さらに清永は、ドラマ放送中に、『みみより! 解説』『午後LIVE ニュースーン』などのニュース解説番組で、これらの用語や事件の解説を行っていた。モデルからかなり逸脱し、令和的な価値観をもって現代人に共感を呼ぶ寅子が、どれだけ自由に暴れまわっても、その背景が史実どおりの事件なものだから、土台が崩壊することがなかったのである。
自由奔放な主人公・寅子のオリジナリティあふれるドラマパートと、現役ジャーナリスト清永聡の取材に基づいた司法パートの組み合わせは、NHKが最近、自局のよさを活かそうとして時々行っている、ドキュメンタリーとドラマの2本立ての番組(『未解決事件』や『NHKスペシャル 南海トラフ巨大地震』など)のアプローチを、朝ドラ流にやってみたという印象を受ける。 史実の事件部分をしっかり描きつつ、それを裁判する人たちの人間臭さをドラマで描き、出来事が自分ごとに思えるように。
■新鮮でありながら、NHKらしいドラマ 『虎に翼』は法曹界の物語で、実際に存在する人物をモデルにしているとあれば、法曹界からの評判もいい。明治大学など大学が応援しているのも強いし、SNSでは主に弁護士の方々とフェミニストとリベラル系の政治家や一般の方々が絶賛の声をあげていた。 また、スポーツ紙ではなく、一般紙が率先して『虎に翼』を取り上げていて、世の中、派閥がものを言うことを痛感させられた。 もちろん、こればっかりになると、知的エリート主義が鼻につくばかりで、これまで朝ドラを楽しんできた一般層にそっぽを向かれてしまう。そこを工夫して、型破りな寅子を庶民的な伊藤沙莉が演じることで、うまいことバランスをとったと言えるだろう。