EUROで躍動するN・ウィリアムスらを生み出したA・ビルバオ。降格の危機に瀕しても守ってきた“バスク純血主義”の伝統【コラム】
「中堅クラブでさえ外国人で相当な陣容を整えるように」
アスレティック・ビルバオは、一つのモデルケースにするべきクラブと言えるだろう。 育成組織「レサマ」は、クラブの‟バスク人選手のみで戦う”という純血主義を支える。そのおかげで、100年以上も1部リーグで戦い続けてきた。これは現代では、ファンタジーストーリーなのかもしれない。 【PHOTO】EURO2024を華やかに彩る女性サポーターを特集! 当然、時代の節目で伝統を捨てる選択肢はあった。 「ボスマン判決(1995年12月、EU加盟国のプロサッカー選手たちは労働条件の自由を手に入れ、外国人扱いされない)の影響は大きかったですよ。欧州フットボールの流れが変わってしまった。我々のフィロソフィーを脅かすほどにね」 当時、アスレティックのスポーツディレクターを務めていたハビエル・イルレタが事情をそう語ってくれたことがあった。 「私は70年代、アスレティックの選手としてタイトルを争いました。80年代、クラブは2度もリーグ優勝を成し遂げています。でも、ボスマン判決が施行されてからのA・ビルバオは残留争いを強いられ、大変苦しんでいました。“バスク人純血主義”を掲げるだけに、どうしても補強面で後れを取り、“搾取される側”に回ってしまったんです。優勝戦線を争うクラブは世界選抜のようになったし、中堅のクラブでさえも外国人で相当な陣容を整えるようになりました」 事実、イルレタは多国籍軍と言われたデポルティボ・ラ・コルーニャを率い、2000年にはラ・リーガを制しており、その利点を思い知っていた。外国人選手は戦力向上だけでなく、所属選手たちを刺激し、ロッカールームに風を吹き込む効果も持つのだ。 一方で、バスク人だけのアスレティックでは選手が“顔見知り”で、マンネリ化と馴れ合いが生まれる周期があった。事実、1995-96シーズンは15位、2006-07シーズンは17位と、2017-18シーズンは16位と、10年に1度は降格の危機に晒され、そのたびにポリシーの是非が問われてきた。しかし、メディアが行ったアンケート調査では90%以上の人が純血主義を支持し、ファンの力で伝統は守られてきたのだ。 「レサマ」 それはスペインの北にある小さな村の名前に過ぎないのだが、そこから次世代の選手は生まれ、今も聖地の響きがある。 2023-24シーズンも、アスレティックはスペイン国王杯決勝に進出している。その原動力となったイニャキとニコのウィリアムス兄弟はガーナ人とリベリア人のハーフだが、レサマでアスレティックの選手の薫陶を叩き込まれた。彼らにはバスク人以上にバスク人の血が流れているのだ。 アスレティックは、レサマを道標に現代を生き抜く。 文●小宮良之 【著者プロフィール】 こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。
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