海底1キロまで掘った大炭鉱で爆発炎上…日曜劇場の舞台・軍艦島が「閉山のカウントダウン」を始めた決定的瞬間
■「端島が終わる…」と言う主人公・鉄平(神木隆之介)の思い 松倉炭鉱長は、三菱が150年以上開発を続け、海底1000メートルまで掘り下げた坑道を水没させるという決断をした。ドラマの予告編でも「端島が、終わる……」という鉄平のセリフが流れたが、その決断の場面は、クライマックスとして描かれるようだ。 端島の損害は当時の金額で2億~3億円と推定されている。米ドルが300円台だった時代、現在なら数倍から数十倍の損害だろう。三菱鉱業の株価も8月に54円だったものが、事故後の9月には46円にダウン。 せっかく経営の合理化を行っていたところだったのに、不運にも端島の事故という異変が起き、経営的にも窮地に立たされた。水没させた海底炭鉱について「この復旧を当社首脳部はいろいろと検討していたが、このほど、それを全面的に放棄」と『週刊日本経済』は報じている。 ■被害者は死亡1人重軽傷22人、それでも戦後最少だった 結果的にこの事故による被害者は、死亡1人、重軽傷22人。この年は他の炭鉱でも事故の原因別で見て「ガス、炭じん爆発」で亡くなった人が8人、合計9人が犠牲となったが、その数字は「死亡者9人のみで、戦後最低を記録した」(『鉱山保安年報』昭和39年度)。 1964年、全国に炭鉱労働者が17万3712人いた中で事故死したのは合計342人。それでも、「三井三池炭鉱大爆発事故」の起こった前年に比べれば半数以下なのだから、まさに炭鉱で働くということは命懸けだったのだと実感させられる。 そして、ドラマで描かれるように、エネルギー源のないこの国では、毎年それだけの犠牲を出しても、人力で石炭を掘る必要があったのかもしれない。しかし、同時に、これだけの人命を奪う石炭産業のあり方自体が問われ、産業の衰退を招いていく。 果たしてドラマでも死亡者が出るのか。そして、それは端島で生まれ育ち、長崎大学を出てからも炭鉱にUターン就職するほど、誰よりも端島を愛していた鉄平なのか。第1話で、おそらく閉山以降初めて40年以上の歳月を経て端島に戻ったいづみ(鉄平の幼なじみの朝子)が、見学の船の上で崩れ落ちるように泣いていた様子が思い出される。 参考文献: 『三菱鉱業社史』三菱鉱業セメント株式会社総務部社史編纂室、1976年、国立国会図書館デジタルコレクション 『鉱山保安年報』昭和39年度、通商産業省鉱山保安局、1965年、国立国会図書館デジタルコレクション ---------- 村瀬 まりも(むらせ・まりも) ライター 1995年、出版社に入社し、アイドル誌の編集部などで働く。フリーランスになってからも別名で芸能人のインタビューを多数手がけ、アイドル・俳優の写真集なども担当している。「リアルサウンド映画部」などに寄稿。 ----------
ライター 村瀬 まりも