『気になってる人が男じゃなかった』新井すみこさんの大人気マンガがSNSから広がった理由とは?
音楽が沈黙を埋め、世界をつなぐ
──音楽もこのマンガの大切な要素です。黄緑と黒という、マンガでは珍しい2色でカラーリングされていて、最初に読んだときにロックだなって思いました。 実は黄緑を選んだのは、第一話をSNSに投稿する15分前だったんです(笑)。バズるとも思っていなかったし、ロックな感じ、ちょっと危険な色がいいなと思って、気まぐれで入れたんですよね。そのラスト・ミニット・デシジョン(ラスト1分の決断)がよかったのかもしれません。 ──NIRVANAをはじめ、たくさんの音楽が作中でかかりますが、新井さん自身の音楽遍歴は? 小さい頃はBECKのアルバム『グエロ』が世界一好きで、父の仕事場でかけてダンスしていたのを覚えています。あそこからロック好きが始まりましたね。NIRVANAは音楽も格別なんですけど、フロントマンだったカート・コバーンのフェミニズムやジェンダーの境界を押し広げていたところにも共感します。私はひとりっ子だったので一人の時間も長かったですし、言葉の通じない場所に引っ越したりもしたので、沈黙を音楽に埋めてもらいながら色んな想像力を養ってもらった気がします。 ──『気になってる人が男じゃなかった』でも、音楽は、まったく違うみつきとあやの世界をつないで、さらに広げてくれます。 そうですね。2巻の最後のシーンは自分でもすごく心に残っています。あやがステージとも受け取れる歩道橋から降りようとするみつきを止めるんですが、友達だなって思うし、愛だなって思うし。みつきの作る音楽に対しても愛がありますよね。 ──「この曲は世界を繋ぐんだよ!!」というまっすぐなセリフにもぐっときました。音楽を描く際に心がけていることはありますか? 私の場合は完全に自己満足で好きな音楽を入れているだけで、立派なことは全然言えないんですが、シーンごとにどの曲が合うかはすごく考えます。音楽からできたシーンもたくさんあって、2巻であやとみつきが手をつなぐシーンはThe Shinsを聴いていて思い浮かんだり。 ──公式プレイリストもありますが、実際に音楽をかけながら読むのも楽しいです。 自分で選んでいるのでちょっと恥ずかしさもあるんですが(笑)、うれしいです。誰にも言ってなかったんですが、公式プレイリストは、みつきとあやがそれぞれ選んだ曲ができるだけ交互に入るように順番を考えているんですよ。もちろん、音楽のフローが一番優先されていますけどね。 ──それを知るとさらに聴き方が変わりますね! 二人のこれからを楽しみにしています。ありがとうございました。