「東日本大震災直後に倒産しておけば…」でも「社員や家族を守りたい。何もしない選択肢はなかった」 復興支援金による会社再建を目指した「イカ王子」の挫折と葛藤
自社ホームページのブログで会社を紹介し、フェイスブックやユーチューブも始めた。復興支援で知り合った人が命名したイカ王子を名乗るようになったのはその頃だ。ネットへは「鈴木良太」ではなく「イカ王子」として投稿するようになった。商品のPRだけでなく地元の魅力発信にも力を入れた。 若きチャレンジャーの取り組みは次第に注目を集め、テレビで紹介されると認知度は急上昇。放送直後から注文が殺到し、イベントに参加した時はサインまで求められた。勢いは中央省庁にまで伝わり、復興庁が「産業復興事例」として取り上げて大臣が工場を視察してくれたこともあった。売り上げは増えていった。 ▽最後は「勝ち目がなくなった」 だが海には異変が起きていた。イカの水揚げ量が年々減っていったのだ。「1キロ300円だった仕入れ値は800~900円になった」。共和水産は主力のイカそうめんでは利益を生み出せなくなり、水揚げが盛んなマダラに目を付けて家庭で揚げるだけの「王子のぜいたく至福のタラフライ」を開発した。
それでも経営状態は悪化の一途をたどった。震災後に売り上げは伸びたものの、会社は元々負債を抱えており、事業拡大で借入金が増えたことも相まって債務超過の状態が続いた。どれだけ商品を売っても借金が減らない。「外見上は復興したように見えるけど、全然そうではなかった」 銀行も融資してくれない中で、借入金の返済に追われる日々。最後は「勝ち目がなくなった」と倒産を選ぶしかなかった。 ▽震災の時よりつらい 「多額の負債がある中で身の丈に合わない投資だった」。震災後、国の巨額補助によって事業を拡大した当時をこう振り返る。一方で、震災のダメージから立ち直ろうとする中で大きな資金が手に入るチャンスを見過ごせなかったと断言する。「早く復活したいし、社員や家族を守りたい。腹が減った時に目の前にまんじゅうを置かれたら食う。何もやらない選択はなかった」 震災直後に倒産しておけば、震災のせいにできたと思うこともある。「能登の人には大変失礼かもしれないけど、震災の時よりつらい」というのが本音だ。 ▽「補助金もらって倒産は税金の無駄遣い」なのか