「鉄は国家なり」 人類は“鉄”なくしては生きていけない
宇宙や惑星、生物の誕生、そして文明の発展などにおいて欠かせない元素として「鉄」があります。私たち人間をはじめすべての生物は鉄がなければ生きていくことはできません。大げさな言い方かもしれませんが、例えば空気を吸い込んだとき、酸素を全身に運びエネルギーを変換する際には鉄が使われています。宇宙空間には強力な放射線が飛んでいますが、地球の中心部に存在する鉄が強大な磁場をつくりだし、地表を安全な環境へと変えているのです。そのほか、鉄はさまざまな工業製品や建物にも使われ、私たちの生活をより豊かなものにしています。 一見、古く時代遅れな物質と思われがちな鉄。137億年前の宇宙創世期、46億年前の地球誕生、そして現在までの生物と鉄との関わり、さらには「なぜ鉄でなければならないのか」を東京大学システム創成学専攻・教授の宮本英昭さんが解説します。
約46億年前に誕生した特別な惑星“地球”
私たちの住む地球は、太陽系のほかの天体と同じようにいまから約46億年前に誕生しました。その後の長い歴史は、単純なものではありません。巨大な天体が衝突することで地球の一部が剥ぎ取られたこともあれば、地表が全部凍り付いたこともありました。 「動かざること山の如し」、というのは人間の時間スケールでの話です。地球の歴史という目でみると、山どころか地球全体が活発に活動していたのです。地下にある莫大な量の放射性元素に由来した猛烈な熱を効率よく宇宙空間に逃がすために、地球規模で内部の物質が対流してきたからです。 これが地表にある液体の水や生命と複雑な相互作用をもたらし、地球は独特の進化を遂げました。これが太陽系のほかの天体と大きく異なる地球の歴史なのです。化学的にみれば、地球は太陽系の中で最も多彩な天体となり、4000種以上の鉱物で覆われるようになりました。生命がほかの天体ではなく地球にこれほど繁栄した理由は、この多彩さにあるのでしょう。私たち人類の文明も、化学的な多様性に立脚して繁栄していると言うことができます。