「味が落ちた」と絶対に言われたくない 丸の内OL、山形県に移住して創業90年の小さな糀屋を事業承継
全国屈指の米どころ、山形県庄内町で1934年に創業した小さな糀店があった。数名の従業員で手作りする生糀(なまこうじ)が人気で、地元を中心に多くの人に愛されてきた「佐藤糀店」。しかし、3代目夫妻は高齢となり、施設の老朽化もあって後継がピンチとなっていた。そんな糀店を引き継いだのは、丸の内OLから山形にIターンした國本美鈴氏。2024年1月1日から新たに「さくら糀屋」を開業した。なぜ、丸の内OLが山形の小さな糀屋を引き継いだのか、國本氏に聞いた。 【動画】専門家に聞く「事業承継はチャンスだ。」
◆結婚を機に山形にIターン、地元の糀屋を事業承継
――山形県にIターンし、糀屋を継ぐことになったきっかけを教えてください。 大学卒業後、丸の内近辺で会社員として働いていて、地方移住は全く考えていませんでした。 米作りに携わる夫と結婚したことをきっかけに、2019年7月、31歳の時に山形県に移住しました。 移住してから3年間は庄内町地域おこし協力隊で、主に町のPR活動に取り組んでいました。 佐藤糀店(「さくら糀屋」の前身となる糀店)の3代目である佐藤ご夫妻とは、この時に出会いました。 設備の老朽化やご自身の年齢もあり、事業を続けることを悩んでいました。 でも、地元の方を中心に多くのファンがいる生麹の歴史を途絶えさせたくないと思い、私が引き継ぐことにしました。 ――事業承継の決め手は何だったのでしょうか。 生糀を使った甘酒を飲ませてもらったことです。 私はあまり甘酒が得意ではなかったのですが、それを飲んだ時にお米の甘さにびっくりして。 「こんなにも美味しいものは、広めていかなければ!」と思いました。 加えて、夫が米農家をしていたので「お米を使った商品開発をしたい」という思いもあったんです。 不安はありましたが、佐藤さんご夫妻だけでなく、地域の方に「ずっとここの生糀を使ってきたから継いでくれて良かった」と喜ばれることも多く、継いで良かったと思います。
◆事業承継に大切な実績・伝統・信頼
――佐藤糀店からさくら糀屋になり、守っていこうと考えている点と、変えていこう・新しくチャレンジしようと考えている点を教えてください。 味と伝統は必ず守っていきたいと思っています。 設備は、お米を炊く大きな釜以外はほとんど刷新し、遅くとも今年の8月から新しい設備、新しい場所で生糀を作っていく予定です。 また、メイン商品である生糀のリブランディングを進めています。 パッケージデザインに地元のデザイナーを起用し、若い世代にもPRできるようにしました。 ――順調に事業を引き継ぐことができた秘訣は何だと思いますか? これまで店を営んできた佐藤さんご夫妻の支えがもっとも大きいと思います。 血のつながりがない私に任せてもらい、師匠として生糀の作り方を手取り足取り教えてもらいました。 また、取引先や地域からの信頼も承継できたこと、協力隊時代に得た地元の方々とのつながりも不可欠でした。 知人が全くいない土地で新しく事業を始めていたら、もっともっと難しかったはずです。 事業承継には実績・伝統・信頼が欠かせないのだと感じています。