【都市化の残像】東京駅 日本人の心に染み付いた「明治=赤煉瓦」
赤煉瓦の壁、白い石の縁取り、いくつかの尖塔屋根は、「辰野式」と呼ばれるが、イギリス風のロマン主義の香りと、東洋風のビザンチン様式の香りが混在する。 その意味で東京駅は、大正期の竣工ではあるものの、辰野式の到達点であると同時に、明治建築の到達点であると言っていいだろう。アムステルダム駅を参考にしたとも言われるが、それよりも美しい、いい建築だ。 そして時代は急速に移っていく。 アール・ヌーヴォーからゼツェッシオンへ、アール・デコからバウハウスへ、というモダニズムの進展の中で、煉瓦造は姿を消していった。日本では帝国ホテルの設計で来日したフランク・ロイド・ライトの影響で、ベージュのスクラッチ・タイルが広がり、ヨーロッパでは、鉄とガラスとコンクリートによるインターナショナル・スタイルの「白い建築」が増えていく。 日本という極東の島国において、世界建築史上最大の素材である煉瓦の時代は、木造建築から近代建築への橋渡しのような、きわめて短い期間に過ぎなかった。 こうして「明治=赤煉瓦」というイメージが、まさに「都市化の残像」として日本人の心に染み付いたのである。 風土と歴史と文化のなせる技であるが、その力学の交点には人間=個人がいる。 人は誰も、知らず知らず、都市化の残像に足跡を残すものだ。