無限が仕上げた「TYPE R」と「RS」初試乗 進化した2台のシビックを味わう
ワークス4社が年に一度集まって、そのトレンドを発表するワークスチューニング試乗会。無限は現行シビックで2つのコンセプトを提案してきた。 【画像】無限のレーシングスピリッツと長年のモータースポーツ参戦で蓄積したノウハウを注ぎ込んだというシビックTYPE R Group.A ホンダのフラグシップスポーツとなるシビックTYPE Rは、2024年の東京オートサロンでお披露目された「Group.A(グループ・エー)」パーツ群の装着がトピックだ。 ■ 究極のTYPE Rを目指して開発された超本気の1台 これは2023年の東京オートサロンで発表した「CIVIC TYPE R MUGEN Concept」を、1年の歳月を掛けて開発し、量産化したパーツ群。樹脂製素材やステンレス素材を基本としたラインアップによって、アフォーダブル(手ごろ)な価格設定としているのが最大の特徴だという。つまりはこの後に本格的なカーボン系パーツも登場する予感だが、ともあれそのスタイリングは、大きく迫力を増した。 そのコンセプトは「EXTREME“R”」。究極のTYPE Rを目指したフルエアロは、風洞実験と実走実験を重ねて開発された。 特に前面に大きく張り出した「フロントアンダースポイラー」は、ダウンフォースの獲得に大きく貢献しており、その前後バランスを最適化するために、大ぶりなリアウイング(なんと翼端板はカーボン製だ)が装着された。ちなみにそのダウンフォース量は、標準モデルと比較して25%も向上しているという。 さらに「フロントバンパーガーニッシュ」「サイドガーニッシュ」「リアアンダースポイラー」でぐるりとボディをひと巻きすることで、無限のレーシングスピリットが表現された。 そして足下には、BBS社と共同開発した19インチ鍛造アルミホイール「FR10」をインストール。さらに「Type Competition」ブレーキパッドを装着し、タイプRの走りに対応してきた。 TYPE R Group.Aでまず感激したのは、フロントサスまわりの剛性の高さだ。まずフルブレーキングでは、バイト感の高いブレーキパッドがタイヤのグリップを素早く立ち上げる。その際フロントセクションが縦Gを真正面から受け止め、かつハンドルを切り込んだときにもそのグリップ感が途切れない。その強烈なターンインを味わうだけでも、ほれぼれしてしまう。 ちなみにその足まわりは、純正のままだ。なんて言うと「だったらそれって、TYPE Rがすごいだけじゃないの?」なんて声が聞こえてきそうだが、それはある意味正しくて、しかしそれだけじゃない。 まず無限がこれだけのタッチと減速感を出しながら、ストリートにも対応するレンジの広いパッドを用意したことが素晴らしいし、それを問題なく受け止めるTYPE Rのブレーキキャパシティもやはり素晴らしい。 かつ純正ホイールよりも合計で約10kg軽いBBSホイールが、バネ下重量を大幅に軽減しながら踏ん張っている。ちなみにそのホイール製作では、実際に数種類の試作品を使ってテストが行なわれた。これは非常にコストの掛かる作業であり、無限開発陣にとってもこの「FR10」ホイールは自信作だという。 足まわり剛性とはタイヤとホイール、アップライトとアーム、スプリングとダンパー、そしてブッシュの合成レートだ。ことチューニングとなると「車高が下がる高機能な車高調サスが偉い」となりがちだが、すでにTYPE Rの純正サスペンションはミシュランの「パイロットスポーツ カップ2」レベルのグリップを受け止め切るだけの剛性とダンピングコントロール機能を持っている。またホンダセンシングの機能を考えれば、車高を下げ過ぎてしまうのも考え物。 そう考えると、純正ダンパー&スプリングのポテンシャルを高める無限のラインナップは、理にかなっている。欲を言えば純正ダンパーで、少しだけレイクバランスを変えられる車高調整システムがあれば最高だろう。 今回のコースではダウンフォース量の増加を体感することはできなかったが、そこは開発ドライバーでもある野尻智紀選手のお墨付きを信じよう。またスポーツエキゾーストシステムは、純正の3本出しに対してシングルフィニッシュしているのが面白い。 中央にあったレゾネーターを廃して両側のメインパイプを1本化することで、軽量化と排気効率の向上を実現した1本だ。サウンドは演出がないせいかクリーンで、とても静か。残念ながら迫力はないが、ますます厳しくなる騒音要求に対しても、これなら対応できるのではないか。総じて無限「Group A」シリーズは、純正TYPE Rのよさをさらに高めるチューニングパーツだと素直に思えた。 ■ 日本仕様の6速MTモデル「RS」のダイナミックさとスポーティさを向上 さらに無限は、シビックのマイナーチェンジに合わせていち早くパーツをラインアップしてきた。そのコンセプトは「ダイナミック&スポーツ」。スタイリングと走りにこだわるシビックユーザーに向けた無限パーツたちを、シビックRSに装着してお披露目してくれた。 まず見た目で驚かされたのは、「フロントアンダースポイラー」の立体感だ。TYPE R用スポイラーと比べて張り出しはサイド部分のみになっているものの、その押しだしの強さはかなりのもの。 かたやこの立体的なトーンに合わせながらも「サイドガーニッシュ」や「リアアンダースポイラー」は一連の流れがスタイリッシュで、同じく控えめな「テールゲートスポイラー」でエアロを一巻きフィニッシュさせている。 最初はフロントの主張がやや強いかもと思ったが、フィン形状を施したドアミラーカバーが付くとダイナミックさもうまく加わるし、なかなかに印象的で面白いエアロスタイルだ。 対して走りは、タイプRと同じく足まわりには手を加えていない。代わりに切削鍛造方式を用いて4輪で約4kgの軽量化を果たした18インチアルミホイール「FS10」と、開発中のスポーツエキゾーストシステムを搭載している。 正直走りの違いは、ノーマル車と乗り比べたわけではないので分からなかった。シビックRSは今回のマイナーチェンジでサスペンション剛性を約11%ほど高めており、一般道での乗り心地がよいとは言えない。 対してFS10ホイールを装着した無限シビックRSはその足さばきが軽やかだったが、南コースはほぼフラットな路面だけに、その真価は測りかねた。高荷重領域においても舵が追従するところを見ると、もしかしたらかなり効き目は出ているのかもしれないな、とは感じた。 むしろ無限には、シビックRSの足まわりを開発して欲しいくらいだ。ノーマルは低荷重域でのレスポンスを求めたせいか、バンプ側に突っ張る感じがある。かつリアは安定性を高めるために、伸び側減衰力が強い感じがする。 だから街中では俊敏なステアレスポンスを示すのだが、少しでも路面が荒れていると突き上げと段差落ちが同時に起きて、お世辞にも乗り心地がよいとは言えない。 足が硬めなら高荷重領域では追従性が出てくるだろうとワインディングを走らせれば、フロントに荷重がうまく乗らずリズムがよくない。ブレーキローターを大型化した割に滑り感が強いのは、コントロール性を高めようと変更されたサーボ制御のせいかもしれない。ともかくせっかくのマニュアルトランスミッション(しかもレブマッチシステム付きだ)でも、なんかピンと来ない走りだと筆者は感じた。 もしダンパーとバンプラバーだけを交換するなら、車高も変わらないからホンダセンシングにも影響はないだろう。シビックRSの“RS”はそもそも「ロードセーリング」だとホンダは述べてきた。 それを本家がちょっとスポーティ路線に振ったというなら、無限は上質さを高めて、本当のロードセーリング仕様にするのも悪くないのではないだろうか。 というのもシビックRSは419万8700円と、TYPE R(499万7300円)と比べてものすごく安いわけではない。むしろ直列4気筒1.5リッターターボエンジンを搭載すると考えたら、ちょっと贅沢なクルマなのだ。 だとすればシビックRSを買い、そしてチューニングまでするユーザーは、「TYPE Rではないスポーティなシビック」を求めているといえまいか。無限のテーマは「ダイナミック&スポーツ」だが、そこに上質さが加わっても、誰も文句は言わないと思う。
Car Watch,山田弘樹,Photo:安田 剛,Photo:高橋 学