是枝監督、カンヌ受賞作は「スイミー朗読してくれた少女に向けてつくった」
フランスのカンヌ国際映画祭で先月、最高賞のパルムドールを受賞した「万引き家族」の是枝裕和監督が6日夜、東京の外国特派員協会で会見した。映画のベースとなった事件やエピソードを紹介したほか、今回の受賞作が一部で物議を醸していることについて触れた。
「盗んだ釣り竿で親子が釣り」
「万引き家族」は、東京の下町を舞台に、万引きなどを繰り返して生計を立てる一見慎ましやかな「家族」の姿を描いた物語。 是枝監督は「いくつかの家族をめぐって起きている事件を参考にした」と明かした。血の繋がりのない家族を主題にしようと考え、「犯罪でしか繋がれない家族がアイデアとして浮かんだ」。亡くなった親の年金をあてに生活する年金詐欺の事件をもとに「家族が優しさで集まっているのではなく、お金目的で集まっている」設定にした。 もう一つは家族で万引きをしていたという事件。記事に書かれていた「釣り竿だけお金に変えず家に残していた」という2、3行が引っかかったといい、ここから「盗んだ釣り竿で親子が釣りをしているイメージ」がシーンとして浮かんだという。 今回の映画をつくる上で、是枝監督は、虐待を受けた子どもたちがいる施設を取材した。そこで出会った、ある女の子のエピソードを紹介した。 学校から施設に帰ってきた彼女に「何を勉強しているの?」と聞くと、ランドセルから国語の教科書を出して、絵本作家レオ・レオニの「スイミー」を読んで聞かせてくれた。職員らが「忙しいからやめなさい」と注意しても、彼女は最後まで読み通した。是枝監督らが拍手すると、とてもうれしそうに笑った。「この子はきっと、離れて暮らす親に聞かせたいんじゃないか」。是枝監督は彼女の朗読する顔が頭から離れなかったという。
「日本映画には社会と政治がない」
現在の日本の映画界にも苦言を呈した。「海外の映画祭に参加するようになって言われたのは、『日本映画には社会と政治がない。なぜだ』と」。 日本の大手の映画配給会社は興行性を重視し、社会問題を扱うような映画を企画しても「ちょっと重い」と敬遠されることがあるという。そういう状況は「日本の映画の幅を狭くしているなと自覚していた」と語った。